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KAMIHATA探検隊

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text & phot/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.2 +++

「ここのジャングルはほかとは一味違うぞ・・・。」

緑の絨毯を一面に敷き詰めたような密林を眼下にそう直感した。

未知の国ガイアナを訪れた神畑探検隊。

この国ではいかなる魚たちとめぐり逢うのだろうか・・・。



シャベルノーズの腹鰭で指を切る

公害になるものは何一つないので、湿地帯の水はクリスタル100%

■公害になるものは何一つないので、湿地帯の水はクリスタル100%

この湿地帯はカラシン科の魚の宝庫だ

■この湿地帯はカラシン科の魚の宝庫だ

翌朝9時、ハリーがホテルに迎えにきた。ホテルの横を流れるデメララ川支流のマディブニ川のクリークに向かう途中、完全舗装された道のことを褒めると、「この道はわれわれが作ったんだ。イギリスの占領時代は彼らは何もしてくれず、搾りとるだけだった」とカリーが胸を張って答えた。対英感情はあまり好ましくないようで、町ではほとんど白人を見かけない。

車道から少し右に入ると、もうそこはうっそうとした密林だ。奥まったところに小川があり、その船着き場には小型ボートに漕ぎ手網を積んで待機していた。段取りは完璧のようだ。川水の透明度が高く、木の葉を通して漏れてくる陽光が紅茶色の水を通して底まで照らしている。

ジャングル地帯を抜け出ると、いっきょに展望が開けて太陽光に照らされた。まばゆいばかりの緑の大湿原地帯が果てしないク広がっていた。紅茶色の水に色とりどりのカボンバやスイレンがぎっしり生い茂っている。あまりの美しさに漕ぐ手を止めて、しばし見惚れる。

漁師に柄の長い手綱を借りて、水草が2m以上あるので、柄の長い手綱でも底に届かない。水草に混じって上がってくる野生魚の美しさには思わず歓声が挙がる。ハチェットのブルーの鱗が日の光にきらきら輝いて、サファイアのように美しい。マーブル・ハチェット、ワイズマニ・テトラ、マジナートゥス・ペンシル、セイルフィン・テトラ、セベラムなどが採取できた。ワイズマニはこの地方の原産ではなく、ブラジルから移入したものだが、水質が合ったせいか、自然繁殖しているのだそうだ。乾期になって、もう少し水位が下がると、さらにさまざまな魚がとれるとのこと。ストック場での輸送用のタンク・ローリーの水はここから運んできたものだという。

いったん元の船着き場に戻って、第2ストック場へと向かった。ここは長期ストック用の施設だから、すべてコンクリート造りの池で、ジャングルからの湧水を使っている。どの池にもゴールデン・テトラ、メチニス、コリドラス・メラニスティウスなどが大量に在庫されていた。上流のほうでは自然の小川を利用してタイガー・シャベルノーズやアロワナが放し飼いでストックされていた。環境が良いのか、どの魚もやたら元気よく泳ぎ回って、なかなか写真を撮らせてくれないので、安川に「ちょっと手でつかんで見せてくれ」と頼むと、彼が無造作にシャベルノーズをつかみ上げた。

色とりどりのカモンバの群生は目をうばう

■色とりどりのカモンバの群生は目をうばう

その瞬間、「あっ、痛い!」と叫んで魚を放り投げてしまった。人差し指と薬指から鮮血がしたたり落ちている。腹鰭で指を切ったのだ。ナイフできったように3cmほどの深い傷口がぱっくり開いている。出血量も多く、本人はかなりショック状態である。応急手当はしたものの、恐ろしい破傷風の感染の恐れもあるので気が許せない。ジャングルでは一瞬の気の緩みが大きなダメージになりかねないと改めて身を引き締めた。

午後からカムニ川沿いの奥地にあるインディオの居住地サンタ・ミッションに行くことになり、デメララ川の船着き場に向かった。向こう岸まで500mはあろうかと思われるほど川幅の広い川だが、ここはココア色の泥水で透明度はゼロに等しい。その泥水が満ち潮で海水に押し上げられるため、水は河口に向かわず、相当な速さで上流へと逆流している。その泥水の水面がら目だけ出している珍しいヨツメウオを見つけたが、すばしっこくて捕まえられなかった。

乗り込んだボートはエンジン不調で、修理してもすぐには直らない。とうとうエンジンを取り替えることになり、2時間ほど待つことになった。「貴重な時間を無駄にして申し訳ない」とハリーが恐縮している。われわれはこれ幸いとばかり、長旅の疲れを癒すため、ゆっくりと寝そべって裸での日光浴を楽しんだ。真昼の太陽がじりじりと皮膚を焼くが、ひんやりとしたそよ風が肌に心地よく、ついうとうとしてしまった。

ジャングルを映し出す川面

水の色が暗褐色なので、夕景も完璧なシンメトリィである

■水の色が暗褐色なので、夕景も完璧なシンメトリィである

エンジンの交換を終えて、再び上流にボードを進めること半時間、支流のカムニ川に入ると、本流と違って水の色がだんだん茶色っぽくなり、さらに1時間進むと、透明度の高い完全な紅茶色の水になった。

上流にインディオの居住区があるせいか行き交うカヌーやボートには船が沈みそうなほど大勢の黒人が乗っていて、陽気に騒いでわれわれにんも声をかけてくる。川幅がしだいに狭くなり、両岸のジャングルの木陰を映していた。写真に撮って人に見せたら、誰も上下の判別がつかないだろうと思われるほどリアルでシンメトリイな風景が目を楽しませてくれる。

われわれのボートは現地インディオの言葉でボンゴと言い、長さ10m強の多目的利用の木造の中速船である。このほかに、ボラボラと呼ばれる同じ大きさのボードがあるが、これは採集した魚を運ぶための高速船である。ボンゴが風を切って全速力で走るときほど気持ちのいいことはない。空気とはこんなにもおいしく、すがすがしいものかと実感した。

わが国の都会では車の排気ガスはもとより、そこに住む厖大な数の人々が休むことなく肺呼吸しており、その吐き出す汚れた空気を互いに吸い合うことに誰もが慣れっこになっているが、数キロ四方にわたって人一人住んでないところの空気は、甘くて、まろやかで、汚れを知らない本物のバージン・エアであることを強く意識させられた。

船首にすわっているカリーさんが紙コップでひょいと川の水を汲み上げ、うまそうに「ゴクゴク」とのどを鳴らして飲んでいる。あまりにおいしそうに飲むので、つい見惚れていると、親指を立てて「グッド!」のサインを私に送ってくる。私も思わず反射的に同じようにコップで川水をすくい上げて一口だけ口に含んだ。なま温かいけれど、口当たりは悪くない。喉が渇いていたので、いっきにぐいと飲み干してしまった。

しばらく進むと、水の色が気味悪いくらい真っ黒な漆色に変わった。透明度はあるものの、黒光りして、コールタールのような色の水になっている。そのとき、原住民の藁葺き小屋が私の目にちらほら入ってきた。

「しまった!上流に人家があるなら、川の水を飲むんではなかった」と後悔するが、もはやあとの祭りだ。自分の軽率さをぼやいていると、安川が「大丈夫ですよph4.5の強い酸性水ですから、何もかも殺菌されてますよ」と慰めてくれる。しかし、案の定、翌日この水が原因で苦しむことになった。

サンタ・ミッションのインディオ居住地に到着したときはもう5時近くになっていた。この近辺はきれいな白砂の浜である。近くの小屋にキャプテンと称する若い男がいて、ちゃっかり入場料を徴収された。村は予想以上に近代化されていて、いささか拍子抜けする。どうやら、この国では奥地のジャングルに住む原住民にも手厚い保護がなされているようだ。

ユニークなインデオの民芸品

■ユニークなインデオの民芸品

トタン葺きの小屋でインディオの村人が大勢集まって楽器を鳴らして騒いでいる。小屋の中で結婚式が行われているのだそうだ。洒落たロングスカートのインディオの女性も見受けられた。粗末な作りながら、村の中ほどにトタン葺きの学校もあり、年代物の鐘が下がっている。牧歌的な風景が印象的だ。売店には彼らの手作りのパームを原料に使った民芸品が売られており、手の込んだ細工物はデザインもユニークで、緻密に作られている。値段が信じられないほど安いので、土産用に十点ほど買い求めた。

村の中央には当村のシンボルともいうべき巨大な樹木がそびえ立っている。何年もの樹齢を刻んできた灯なの皺の多い老木は、時代とともに移り変わるインディオの生活をじっと見据えてきたに違いない。対岸にはアフリカのサバンナのように地平線の彼方まで見通せる広々とした素晴らしい大草原が見えている。戻りながら、空一面を真っ赤に染める南国特有の大きな太陽がジャングルの中にゆっくり沈んでいくのが見えた。薄紫色の空には真っ赤な夕焼けが重なって二色のコントラストがなんとも言えない美しさを描き出していた。

あたりはもう完全な闇に包まれてしまった。ボードには投光機がないので、手持ちの懐中電灯を照らし、流木を避けながら全力で帰路を急ぐ。本流に出て視界が開けると澄み切った空気のせいか、空一面に隙間がないくらい銀の砂をばらまいたように星が輝いている。ニューギニアの奥地で真夜中にアロワナとりに出かけたときに見た流星の飛び交う夜空も素晴らしかったが、ガイアナの夜空も優るとも劣らないほど神秘的で美しい。日本では想像のできないきらめく夜空である。

美しい星群を眺めていると、さまざまなことを考えさせられてしまう。この宇宙には2千億からの星雲があるという。その宇宙の片隅にある1つの星雲がわれわれの銀河系であり、その銀河は1千億以上の恒星から成っており、太陽はその恒星の1つである。われわれの地球はと言うと、その太陽を取り巻く9つの惑星の1つにすぎない。われわれの住む地球が素粒子がぶつかって偶然に融合してできたとは思えず、絶対神というのか、何らかの大きな意思の力で創造されたとしか考えられない。いろんなことを考えさせられる神秘的な夜空であった。

星と人間の関係に思いをめぐらせながら、首が痛くなるほど夜空を仰ぎ見るうち、ボードが船着き場に接岸した。夜が更けて、胴がふるえるほど肌寒かった。

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