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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in MYANMAR 「仏の国の聖なる川で新種を追う!」
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.4 +++

「仏の国の聖なる川(イラワジ)で新種を追う。」

仏の国ミャンマー。そこにある聖なる川と呼ばれるイラワジ川。神秘と新種に満ちたこの土地でいったいどんな魚に、人達に出会えるのだろうか・・・。


ネズミとルビーとジャカランダ

ヤンゴンに戻る日だが、インレー湖での採集が期待外れだったので、へーホー空港に着くまでに適当なポイントを見つけて網を引きたいとビラットに注文をつける。湖北部の小川で近くで働いていた農夫に網引きを手伝ってもらったが、魚は湖と大差がなかった。 でも魚種は多く、大型のオレンジ・グラスフィッシュの美しさが印象に残った。

サラマンダー。これはイボイモリ。背中が赤い

■サラマンダー。これはイボイモリ。背中が赤い

マーケットで売られているネズミの干物。タウンジーにて

■マーケットで売られているネズミの干物。タウンジーにて

イギリス植民地時代の避暑地として有名な標高1430mの"大きな山"という意味のタウンジーの町に着いた。この高地の川では、珍しい背中の赤いサラマンダー (サンショウウオ)がいるが、残念ながら乾期には見ることができない。

市場にはネズミの腹を開いたものがたくさん並べられていた。驚いて「ミャンマーの人はネズミまで食べるのか」と質問すると、タンさんが「これは水田に棲む野ネズミで、いくらなんでも家の天井を走り回っているネズミは食べない」と言う。

ルビーの原石を売る商人。しつこく声をかけてくるが、カモにされるのがオチ

■ルビーの原石を売る商人。しつこく声をかけてくるが、カモにされるのがオチ

高地に咲くジャカランダの大木。淡い青紫の花を咲かせる。タウンジーにて

■高地に咲くジャカランダの大木。淡い青紫の花を咲かせる。タウンジーにて

ここの近くの特産になっているルビー市場に行くと、何百人もの人が取れたての原石ルビーをテーブルの上に並べて値段の交渉をしていた。 「ワーワー」と、すごい熱気だ。集まっている人の容貌はいままで見慣れたこの国の人々のそれとはいささか異なり、その多くが彫りの深いインド・パキスタン系の人々である。 いいカモがきたとばかりに、強引にわれわれに売り込んでくるが、「値は安いけれど、素人はだまされるのが落ちだから」とうタンさんの忠告に従って、何も買わずに出た。

外に出ると、目がくらくらするほど日差しがきついが、吹く風は高原の爽やかな秋風である。町のあちこちに藤の花のような淡い青紫の花をいっぱいに咲かせた ジャカランダの大木を見かける。 アフリカのケニアのナイロビの街路樹として有名な木だ。高さ10mほどの大きな木の枝には釣り鐘のような花がたわわに咲き、花盛りになると、町全体がスミレ色にかすみ、 地上は落ちた花びらで紫の絨毯を敷き詰めたみたいになる。ここはナイロビと標高がほとんど同じなので、どうやら高原に育つ木らしい。どこで見ても美しい木だ。私の大好きな木でもある。

ヤンゴンに空路で戻り、夕食は「新鮮でうまい料理を食べさせるヤンゴン一のレストランに行く」というビラットの触れこみで出掛けた。 店先にずらりと並んだ竹篭のなかで蛇や蛙がもぞもぞ動き回っている。たしかに、新鮮な材料という言葉に嘘はなさそうだ。

テーブルに親指大のイモムシが出された。気持悪いが、勧められるままに一口食べてみた。中は白くてとろりとしたクリームのようでけっこうな味だが、 わが社の女性軍が食べている私をまるで気味悪い生き物を見るような顔つきでしげしげと眺めているのにはまいった。

満天の星のもと、屋上で夜風に吹かれてタンさんの3人の娘さんを交えて話しが弾んだ。長女は大学生だが、2校しかない大学が財政困難で目下閉鎖中とか。 政府関係の仕事にたずさわっているタン夫人がお隣のタイに出張するのでさえ、ビザの取得に6ヶ月もかかるという話しなどから、この国の厳しい財政状況を改めて再確認させられた。

コオンを噛み、タナカを塗って

イラワジ川の下流にあるニョンロンという町まで3時間かけて車を走らせた。この国での最後の魚とりである。ニョンロンはイラワジ川下流の交通の要所でもあり、 川沿いの土手には休憩所や屋台がずらりと並んでいた。大勢の人々がひしめくように行き交い、昔の日本の街道に並ぶ宿場のような賑わいだ。

"コオン"という噛みタバコの店がやたら目につく。この国の人は"キンマ"という植物の葉に、その実と石灰やタバコの葉を包んでチューインガムのようにして噛む習慣がある。 その効用は虫歯予防とか、胃腸を丈夫にするとか、いろいろな薬効があると言われるが、刺激性と清涼感がなによりの魅力だという。 ところが、これを噛むと口の中が真っ赤になってしまう。 それを道端の水溜りにペーッと吐くので、血が流れているみたいで、それを見るとすわ何事かと思わずどきっとさせられてしまう。

顔にタナカを塗った姉妹

■顔にタナカを塗った姉妹

また、どこに行っても女性が顔に白いおしろい状のものを塗っている。柑橘系類の木の皮を剥いで、おろし金ですりおろし、水に溶いた"タナカ"というものを塗っている のだが、太陽光線が強いこの国の女性に紫外線除けと同時に、肌をすべすべにする美容面での効用で愛用されているのだそうだ。 でも、これを塗っていると、どんな美人も残念なことにチンドン屋さんのメイクにしか見えない。街角ではこの木を約30cmに切り揃えて束にして売っている光景をよく見かける。

川沿いの土手にある茶屋でしばらく待っていると、向こう岸から一隻のボートが迎えにきた。 対岸の砂場では15人ほどの漁師が網引きの準備をして、われわれの到着を待っていた。岸辺はきれいな砂地で、その上に粗末な茅葺きの漁夫の掘っ立て小屋があちこちに見える。 雨期になると、この小屋もすべて水没してしまうという。水の流れは速くて、網引きの邪魔になる藻がまったく見られないので助かる。収穫に期待が持てそうだ。

全員が力を合わせて「エンヤコラ、エンヤコラ」とばかりに全長約250mの引き網を引く。30分ほどかけて引き上げた網には、鱗をきらきら輝かせた魚がいっぱい飛び跳ねている。 魚種も多く、文句なしの豊漁である。わが社の女性スタッフも自分たちだけで網を引き、獲物がかかるたびに嬌声をあげて喜んでいる。 彼女たちもそれまでの欲求不満をいっきに解消したようだ。

イラワジの網引きは豊漁であった
■イラワジの網引きは豊漁であった

当社の飼料開発スタッフからの依頼もあって、とれた魚の何尾かを解剖して、腸の中を調べることになった。メスを手にした岡橋が素っ頓狂な京都弁で 「わぁー、この魚まだ生きてはります」と弱音を吐くので、仕方なく弱った魚だけを見つけて解剖させたが、 さすが水産学科の出身だけあって、手慣れたメスさばきは鮮やかだ。

魚の食性を調べてみる グリーンの色が鮮やかなインド・アカメフグ
■魚の食性を調べてみる ■グリーンの色が鮮やかなインド・アカメフグ

魚の一部を袋詰めして日本に持ち帰ることにして船着き場に戻って昼食を取っていると、前の駐車場に「おや」と一瞬わが目を疑う光景があった。 ××観光、××養護学院などと車体に大きく日本語の文字の入った車がずらりと並んでいる。輸入した日本の中古車の看板を書き換える経費を節約して、そのまま使っているとのことだが、 むしろステータスがあって、かっこいいと思っているのかもしれない。こんなところまでやってくる物好きな日本人は初めてらしく、とりわけ女性二人が当地の人の関心の的になっていた。

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