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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in MYANMAR 「仏の国の聖なる川で新種を追う!」
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.3 +++

「仏の国の聖なる川(イラワジ)で新種を追う。」

仏の国ミャンマー。そこにある聖なる川と呼ばれるイラワジ川。神秘と新種に満ちたこの土地でいったいどんな魚に、人達に出会えるのだろうか・・・。


奇習が残る高地のインレー湖

長旅の疲れを癒しながらロビーで休憩しているとき、柱にかかった1枚の絵画が私の興味をそそった。この付近のシャン州に住む首長族の女性の絵である。この変わった部族には以前から興味をもっていたので、タンさんにいろいろ質問をぶつけてみた。

■湖の東、シャン州の高地に住む首長族のパダウン族

■湖の東、シャン州の高地に住む首長族のパダウン族

■水上マーケット風景

■水上マーケット風景

「パダウン族はビルマの少数民族の1つで、首にはめた真鍮のリングを彼女たちは毎年1つずつ増やしていくのだそうだ。首が長く見えるけれど、首そのものが長くなったわけではなく、リングの重みで肩の骨が圧迫されて下がるため、首が長く見えるのだ」とタンさんが説明してくれた。

一見グロテスクに見えるこの風習には、じつは隠された理由がある。ろくろ首のような風貌にすることで他部族から気味悪がられ、女子を略奪されることを防ぐことを目的としているという。民族が生き残るための悲哀な心根が込められているのだ。アフリカのウガンダ南部の、オモ地区に住むスルマ族のことを思い出した。 この部族の女たちも唇の中に陶器の円盤を入れる奇習を持っているが、女性たちの唇をグロテスクで奇妙な形にすることで商品価値を下げ、奴隷商人からの略奪を防いで、妻や娘たちを守ろうとしたと言われている。やはり部族の存続をかけたぎりぎりの厳しい選択なのだ。明朝、訪れたマーケットにこの首長族がときどき来ていると聞いて期待していたが、その特異な姿を目にすることはできなかった。

夜半の湖畔のホテルは闇に包まれて物音1つせず、耳が痛くなるような静寂に包まれている。いつも騒音の中に置かれているわれわれには貴重なひとときだった。また、蚊が一匹もいないことも有難かった。

翌朝、輪タクを利用して町に出ると、途中で何台もの乗合馬車に出会う。この国の田舎町では、いまも庶民の交通機関として馬車が活躍している。馬は小振りだが、足が太くて短く、見るからに脚力がありそうだ。ビラットが「30年前のタイにもこれと同じ光景があった」と懐かしがる。

朝9時、インレー湖畔に着いた。南北60km東西が10kmの大きな湖には800近い大小さまざまの人工の浮島があるという。岸辺にはアシが群生し、水深は浅く、乾期には2mそこそこになる。水の透明度は思いのほか高く、白い砂地の湖底には青々とした高さ1mもある大きなクリプトコリネがびっしり隙き間がないほど生い茂っている。湖の周辺には8万人からの人が住んでいるということだが、それらの住民から相当量の生活排水を出しているに違いないのに、この藻の浄化作用のおかげか富栄養化せず、高い透明度を保っているようだ。

この湖の漁師のボートでの片足漕ぎは有名である。足で漕ぐと、網をたぐるのに片手が使えて便利であるからという。われわれのボートには2mもの長いシャフトの先端に小さなプロペラをつけた船外機が用いられているが、水草の多い場所ではプロペラを上に上げて、藻がまとわりつくのを防ぐ仕掛けになっている。

■世界でも珍しいカヌーの片足漕ぎ

■世界でも珍しいカヌーの片足漕ぎ

■この湖を代表するインレイキプリス・アウロブル・プレウス

■この湖を代表するインレイキプリス・アウロブル・プレウス

湖に出る細長い入り江で、水牛が群れをなして泳ぐシーンに出くわした。まるでカバのように勢いよく水中にがっぷりもぐり、「ブゥー」と水煙を吹き上げながら、猛スピードで泳いでいる。

広い湖のなかにぽつりと建つ竜宮城のような政府直営のレストランがあった。その付近の水はすこぶる透明度が高く、魚影も濃い。湖底にぎっちり生い茂っている美しいバリスネリアやクリプトの間を縫って、小魚が銀色の鱗をきらきら光らせて泳いでいるが、水深が3m以上あるので、網引きができない。悔しい思いで魚を眺めていると、元気のいいレストランのおばちゃんが「網をよこしたら魚を取ってやる」と建物のはしけの下で魚とりにチャレンジしてくれた。どうやってとったのか、イワシのような銀色の魚体にブルーの濃淡の縦縞のある7~8cmのインレイキプリスをとってくれた。初めてお目にかかる美しい色彩に一同が感嘆の声を挙げて目を輝かした。

湖底は水草の新種の宝庫

湖中には湖底の堆積土と藻を積み上げて造られた浮島が点在し、あちこちにトマト栽培の農園が見られる。ホテルで食べたこの無肥料のトマトは、甘くてすこぶる美味であった。

岸辺近くは藻が多くて網が引けず、湖中に降りようとしたが、竿がブスブスといくらでも入りそうな底なし沼みたいで、危険きわまりない。そのせいか漁師は棒を使って篭の中に追い込んだり、竹で編んだ魚取り用のモンドリ篭を使ったりして湖の中には入らない。この篭は入り口がジョウゴのようになっていて、魚が一度この中に入ると外へ出られなくなる仕組みになっている。

■湖の藻を積み上げて作った菜園の浮島
■湖の藻を積み上げて作った菜園の浮島

水草の種類は豊富で、そのエキスパートであるビラットですら見たことがない水草が多いと大張り切りで、魚そっちのけで珍種の藻の採集に夢中になっている。漁師が収穫した真っ黒い小型エビは観賞用に使えそうな珍種だった。

このポイントは湖がくびれて細くなったほぼ中央部で、湖の南端までまだ3時間以上もかかるという。南の湖はほとんど人家がない無人の未開地とのことで、そこならきっと珍しい魚がいるはずと思ったが、南部は反政府軍の多い地域なので、治安上の問題があるとかで、残念ながら南湖での採魚は見合わせることになった。

湖での採魚。思ったり透明度は高い

■湖での採魚。思ったり透明度は高い

近くにある黄金のパゴダに参拝した。強い太陽の日差しを受けて、塔全体がきらきらと黄金色に輝いて壮麗だ。中央の祭壇には高さ40cmほどの黄金無垢の達磨さんのような仏像が5体安置されていた。参詣者は入口で何枚かの金箔を買い、願い事をしながら、仏像にぺたぺた貼っていくのだ。ビラットが「5年前に参拝したときに比べて、仏像が2倍の大きさになっている」と驚いていた。祭壇には女人禁制の掲示板が立っていたが、海外からの観光客が増えるにしたがい、この規制は女性からクレームが出されるに違いない。

帰りの途中、たびたびポイントを変えてトライしたが、やはり水中に降りられないため思うように網が使えず、欲求不満でいらいらがつのっただけだった。ホテルのロビーでぐったり休んでいると、さきほどの漁師がレッドフィン・ノーズのたくさん入った袋を持ってきてくれた。別の漁師は珍種中の珍種と呼ばれるミクロラスボラ・エリスロミクロンらしき魚も持ってきた。漁獲が少なかったことを気にしての、この国の人の心遣いが嬉しい。

女人禁制のパゴダの中の黄金無垢のダルマ。参拝者が願いを込めて金箔を貼っていく。

■女人禁制のパゴダの中の黄金無垢のダルマ。参拝者が願いを込めて金箔を貼っていく。

■発色が美しいレッドフィン・ノーズ

■発色が美しいレッドフィン・ノーズ

夕食では皿にてんこ盛りした油で炒めた小魚が出てきて、わが社の女性陣から「わぁー、可哀そう」という声が挙がるが、箸を持つ手は言葉とは裏腹で、けっこうおいしそうにぱくついている。ピンク・ラスボラ、グラスフィッシュなどの煮干しだが、この美しい小魚も当地の人には食用としてしか意味を持たない。隣のホテルから民族舞踊ショーの賑やかな打楽器の音が聞こえてきたのに惹かれてか、浮き浮きしながら彼女たちは出ていった。

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