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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in MALAYSIA 「国境の川(アル・ポンス)でアロワナ探索の旅」です。
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ マレーシア/1 Vol.2 +++

「国境の川(アル・ポンス)でアロワナ探索の旅」

インドネシアのスーパーレッド・アロワナは飽きるほど見てきたが、
ゴールデンには一味違う美しさがあり、新鮮な魅力を感じる。
東南アジアで群を抜いて高い経済成長率を誇るマレーシアで、
願わくば、この手でなんとかゴールデンを物にしたいとファイトがたぎってきた。


アル・ポンス川のゴールデン・アロワナ

アル・ポンス川に乗り入れるボートを三隻出して、一隻めに私と日浅、二隻めにドクター・ローとチョン、三隻めにランブリー名人が乗った。 アロワナは夜行性なので、徹夜になる覚悟が必要だ。村の中の狭い水路から本流に出ると、急に流れが速くなった。二、三日前に降った大雨で上 流の水かさが増しているらしい。

ボートはエンジンを止めて櫂で漕ぎながら波の音がしないように静かに川を進む。漁師たちが自動車のバッテリーを改造したヘッドランプで水 面をなめるように照らしてアロワナを探している。アロワナの目は暗闇でもルビーのように赤く光っていて、ライトが目に当たると、光に眩惑さ れて動かなくなるので、捕獲はいとも簡単だそうだ。

とつぜんのライトに猿がびっくり仰天して、ギャアギャア鳴きながら木から木へと飛び移って逃げていった。両岸には大きな木がぎっちりと生 い茂り、蔦が簾のように水面に垂れ下がっている。

このあたりはスンガ・バリン川とアイウク・ポング川の二本の川が交差して中の島を作り、再び一つに合流して海に流れ込んでいる。その中の 島を一周するのに四馬力のエンジンをつけたボートで八時間もかかるという。興味をそそられるのは、この川にイカン・タッパというサケ科の巨 大魚が棲んでいるという情報である。

イカン・タッパは「七十~八十kgの重量があって、車のボルボほどの体長の超大型魚で、ワシントン条約で保護されているので、輸出は禁止さ れているが、原地人にときどき捕獲されています」とンク氏が言う。

葉にふれると、かゆくてかゆくて。水牛も逃げるといわれるレンゲスの木か?

■葉にふれると、かゆくてかゆくて。水牛も逃げるといわれるレンゲスの木か?

また、この川には変わった木がある。役人がたびたび「危ない!その枝に注意しろ」と叫ぶ。トゲのある木かと思ったら、ウルシの類いで、 触れると、そのかゆさは半端でないらしい。この木には二種類あって、一つは“ドュドック”と言い、ココナツに似た葉で、新芽は火を作るとき の原料になるらしいが、そばを通るだけでもかゆくなるそうだ。もう一つは“レンゲス”と言い、マンゴーに似た葉で、この木が上流にあると、 下流の人までかゆくなるという。誰かの恨みをかって村の井戸にでもこの葉を入れられたら、それこそ村じゅうの人がかゆさで大騒ぎになるのだ そうだ。この木が水の中に生えていると、水牛も近寄らずに逃げていくという強烈なものらしい。しかし、この木がゴールデンアロワナの生息する 水系と何か関係がありそうに思うのは私の思い過ごしだろうか。

真夜中の三時ころになっても、目ざすアロワナにはお目にかかれない。私が乗ったボートはお粗末を絵に描いたような木造舟で、絶えず水をか い出しておかないと、すぐ底にぬるぬるの水がたまり、腰を下ろす場所がなくなる。こんなボロ舟に五時間も乗っていると、私のような年齢でな くとも、体調が変になってしまう。

あまり遅くなると同行者に迷惑をかけるので、残念ながら漁を打ち切ることにしたが、獲物がないときの疲れは倍加する。こんなボロ舟で闇の ジャングルを飽きもせず五時間も魚探しするなんて、よほどの物好きでないとやらないだろうなどと思ってしまう。

漁師たちが気の毒がって、先週この近くで一尾だけとれたゴールデンを見に行こうと誘ってくれた。真夜中に寝ている家人を叩き起こしたが、 主人がにこにこ笑ってわれわれを招き入れてくれた。こちらの人は一見いかつく見えるが、誰もが親切なので、かえって恐縮してしまう。

疲れたので早く横になりたいが、タイピン市の予約したホテルに帰り着くまで車で一時間ほどかかった。ところが、このホテルのチェックイン は朝の八時からしかできないという。夜明けまでまだ三時間もあるので、町中を走り回ってやっと別のホテルを見つけてそこで朝まで休ませても らうことになったが、冷房が効きすぎて寒くて寝てられない。セントラル方式なので、部屋では調節できないのだ。寒い寒いと震えながら、身に まとえるものをすべて身に着け、やっと仮眠できた。熱帯地方のホテルはどの部屋も冷房が効きすぎている。クーラーの温度を下げるほどいいサ ービスをしていると勘違いしているようだ。

暗闇の中、アロワナ探しは続く

■暗闇の中、アロワナ探しは続く

ブキット・メラ湖でのアロワナ探し

夜が明けたので予約したホテルに戻ると、クンプラン社の社員のフリックス・マイケル青年が待っていた。アロワナ調査の助っ人として来てく れたのだ。若くてハンサムな青年で、礼儀正しく好感が持てる。

マイケル青年はボルネオ島のイバン族出身の獣医師の母親とクチン村の村長を父親に持つ変り種だ。母が首狩族の出身ということに悪びれた風 情はない。国立大学で博士号を取得し、マレーシア1の大企業に入社しているからには優秀な人物に違いない。

マイケル青年が同行して、夕方からアロワナのメッカであるブキット・メラ湖に向かうことになった。この湖はゴールデン・アロワナの生息地 としてとくに有名で、年間に五百尾ほどとれ、しかも観賞的な美しさは前夜の川でとれるアロワナと比べても数段上だと言われている。

湖の写真を撮りたいので、明るいうちにボートで出航することにした。ブキット・メラ湖はそれほど大きくはなかった。水質は薄褐色で透明度 が高い。しかし、第一印象はかなり汚染され、俗化された湖という感じだ。水の色はスーパーレッドが生息するボルネオ島のカプアス川に似てい るが、この水質がゴールデン・アロワナの遺伝因子に関係があるような気もする。

アロワナ採集の漁師スタイル。自転車がすごい

■アロワナ採集の漁師スタイル。自転車がすごい

近くの雑貨店で最近とれたアロワナを見せてもらったが、まあまあの美しさだった。ブキット・メラ湖ではアロワナ捕獲の禁止令がなく、誰が 魚をとってもいいので、シーズンになると、岸辺は夜を徹してアロワナとりをする人たちで賑わうのだそうだ。なんだかアロワナの神秘的なイメ ージが崩れそうになる。

ボートはゆうに十人は乗れそうな大型だ。屋根つきで、腰掛けもある。それにしても昨夜のおんぼろボートはきつかった。出航するとき、薄暗 くなった西の空を見ると、日没寸前の空には妖しげな紫色の雲がたなびき、気味悪いほどの美しさに見惚れていた。

目的地に着く前に夕食をとることになり、日本から持参した食料をみなに分配してくつろいでいると、蚊の大群が襲撃してきた。顔じゅう蚊よ けクリームを塗りまくって、そのうえスプレーを撒布して必死に防御するが、口の中まで入ってくるので、防戦に大わらわだ。ライトを消せば攻 撃がやむが、明るくすると、わーっと襲ってくる。インドネシアと違って、マレーシアにはマラリアを媒介する蚊がほとんどいないと聞いていた ので、刺されても安心とはいうものの、この大群にほとほと難儀してしまう。ライトなしにアロワナは探せないし、ビデオも撮れないので、襲撃 を受けてもライトを消すことはできないのだ。

アロワナの住むところには必ずこのカスーの木がある

■アロワナの住むところには必ずこのカスーの木がある

岸辺にはカプアス川上流のメライ湖にもあったカスーという剣のような長い葉を持った植物がぎっしり密生している。カスーには昆虫が好んで 集まってくる。それをアロワナが捕食するので、アロワナとカスーには相互関係がありそうだ。

ランブリー名人はボート上で見事なバランスをとって仁王立ちになり、片手に網、もう一方の手に擢を持ち、つぎつぎと魚を引き上げていく。 動きには無駄がなく、さすが名人だけのことはあると感心するものの、網にかかっているのはラスボラやグラミーといった食用魚ばかりで、 アロワナはいっこうに姿を見せない。夜中の二時を過ぎたので、あきらめてホテルに帰った。

ちなみに、この湖には1950年ころまでアロワナがうじゃうじゃいたという。水の汚染が減少の原因としても、昨年は1シーズンに六千尾とれ たというから、やはり来る時期が早すぎたようだ。

 

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