カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊


撮影・文/神畑重三・水上司(株)キョーリン・山中幸利 神畑養魚(株)
協力/M.S.CHONG(HIKARI marketing Malaysia)・周旭明(台湾・上凡出版社)



アマゾン、そしてニューギニア・イリアンジャヤ探訪記を寄稿して下さった神畑氏。
今度はボルネオはウエストカリマンタン探訪を思い立った。
同行するのは、水上、山中の両氏。彼らは万全を期し、現地入りを果たした…のだが、
何が起こるかわからないのが異国の地。神畑氏らは予定を変更し、
ポンティアナを中心にアロワナ養殖場見学に専念した。
インドネシアにおけるアロワナ養殖の実態はいかなるものだろうか。



+++ Vol.1 +++

カリマンタンへ

1990年のアマゾン奥地、昨年のイリアンジャヤ(ニューギニア)に引き続き、今年はボルネオ奥地の探訪を思い立った。

未だ日本人が入ったこともないであろう、西カリマンタン(現地語でダイアモンドの川)のジャングルで、オランウータンや手長猿とぜひとも対面のあいさつをしたい。

全長700kmのカプアス川をそ上し、カプアス山脈(2000m級)のふもとにある一大湿地帯Danau Sentarumを中心とするルアー湖(Lake Luar)、サンタルム湖(Lake Sentarum)は、支流、分流がクモの巣のように流れている秘境である。この地には数多くの新種の魚が生息しており、あのスーパーレッドアロワナの、世界唯一の生息地ともいわれている。それらの調査が、私たちの旅行の目的であった。


■アロワナ養殖池はこのような鉄筋網で囲まれ、プールのように整然としている。

謎の妨害工作!?


■アロワナは卵をはき出すと二度と口に入れないため、作業は慎重さが要求される。




■親魚のチェック作業はアロワナが飛び上がるので危険も伴う。

8月19日より、約10日間の予定で社員の水上、山中を連れて現地入りした。しかし、今回の旅行はそう簡単にはことが運ばなかった。

昨年のイリアンジャヤへの旅行の折り、奥地に入る私たちの小型機の飛行をインドネシアCIAによって差し止められたりしたこともあり、この国の厳しい規制には難儀させられた経験があったので、今回の準備は万全を期したつもりであった。事前に東京のインドネシア大使館に旅行の目的を説明し、協力をあおぎ、ビジネスビザも発行してもらった。また、伊藤忠商事の現地スタッフの協力で、ジャカルタの警察本部のビザも取得した。

しかし、どうしたわけか、もうひとつの許可官庁である森林自然保護局から急に強い圧力がかかり、9月中旬まで、奥地入りを延期せよとの公式通達が入った。限られた日数をやりくりしてきている私たちにとって、それを待つための1ヶ月の滞在はもちろん不可能である。


■アロワナ親魚池チェック(抱卵状態)を行う。


■ポンティアナにて。THE HENRIEの巨大な室内養殖場。

警察のビザがあるので、強行入境できないことはないとも考えたが、今後のこともあり、涙をのんで奥地の上流入りを断念、12月に再度トライすることにした。

12月は雨期であり、水位が高くなるので湿地帯の奥深くまで行けるし、そしてまた、アジアアロワナの産卵期でもある。

そのようなわけで、今回はポンティアナ(Pontianak)を主体としたアロワナ養殖場見学に焦点をしぼった。ポンティアナではほとんど英語は通用せず、もっぱら、同行してくれた当社”Hikari”ブランド飼料のマレーシア代理店のMr.チョン(私の長年の友人でもある)に通訳を頼んだ(なお、マレーシア語とインドネシア語は90%共通であるという)。正確さを欠く面もあるかと思うが、以下、私が現地で検分したことをレポートしよう。


■口からこぼれた卵は1個残らず回収して人工孵化を試みる

養殖の実態


■口からこぼれた卵は1個残らず回収して人工孵化を試みる




■BINTANG KALBALにて。ダトニオ(プラスワン)を拝見。

日本では、既に熱心なアマチュアの水沢氏によって、1989年、世界初の水槽でのアジアアロワナの産卵と繁殖に成功、熱帯魚養殖の歴史に輝かしい足跡を残している。アジアアロワナにも新しい夜明けが訪れたといわれるほど、この繁殖成功の持つ意義は大きい。なぜなら、絶滅の危機に瀕する貴重な野生種の保存という本来の目的実現を可能とし、世界中のアクアリストに対して、本種が将来、水槽で楽しめるという大きな福音をもたらすからである。さらに、自然を切り売りすること以外に生活の道がない現地の人々にも、新しい収入源として大きく寄与するであろう。

インドネシアにおいても数年前からアジアアロワナの人工繁殖が成功し、本種(インドネシアではSILUKと呼ばれる)はCITES(The Convention OnInternational Tradein Endangered Speciesof WildFauna & Flora)附属書のIよりIIに格下げされた。これは、産出国が許可した証明書のある個体に限って輸入や所有が認められるというものである。

そして、形の上では政府の輸出許可証明(現地では便宜上これをサイテスと呼んでおり、とりあえず本稿でも以下同様に呼ぶことにするが、本来のサイテスの意味は、あくまで法の名称の頭文字の略号にしかすぎない)のある個体については、商取引が認められることになっているが、果たして実態はどうなのか?

私たちの調査では、現地の養殖業者の懸命の努力が実を結び、アジアアロワナの養殖はわたしの想像以上に順調に軌道に乗りつつあった。

高価な理由

アジアアロワナに対してわたしたちが持っていたイメージは、魚としてはこよなく美しいが、ビジネスとしてはダーティで、暗躍する密輸業者、現地の業者ですら”ヘロインビジネス”といっている。今回の実態調査では、まださまざまな不可解、かつ未解決の問題はあるにしても、この考えを改めるべきだということを痛感した。おそらくインドネシアの物価水準からいくと、スーパーレッド一尾の価格は、優に彼らの半年分の生活費に匹敵するのではないかと思う。

なぜそんなに高いのか?その理由として考えることに、次のものがある。


■同じく巨大なクラウンローチ。

1)サイテスの入手に高額のコストがかかる。

1枚の書類になぜそこまでとてつもなく経費がかかるのか理解に苦しむが、それを説明しようとするなら、この国自体の行政のあり方まで解明しないといけないだろう。


■アロワナ親魚池。右に立っているのは筆者神畑氏


■体長1mはゆうにあるスネークヘッドの親魚。

2)需要と生産・供給のバランスがとれていない。

養殖といっても、昨年の政府の輸出割当数は3,000と聞いているが、おそらく繁殖個体はその半分にも満たないのではなかろうか(これはあくまでわたしの憶測であるが)。そして、他の個体は採集ものと思われる。

現在、アジアアロワナを川で採集できるのはジャングルに住む原住民に限られており、一般の住民が捕獲することは厳重に禁止されている。以前、彼らは食用にしていたらしいが、今は、採った個体を街へ売りに行って金に換えているのが実態だ。

体調20cmのグリーンアロワナは、現地相場ではわずか数十ドル。海外へ輸出されるスーパーレッドは日本相場数千ドルというベラボウな価格だが、この価格差の大部分は、サイテス取得のためにかかる経費によるものらしい。各ブリーダー共、輸出数量が制限されているので、魚自体が安いわりにはサイテス取得に費用のかかるグリーンアロワナより、高価なスーパーレッドばかりを売りたがるのは当然である。もし、このスーパーレッドが養殖され、安いサイテスで輸出できるとしたら、アクアリストにとってどんなにか楽しいことだろうと思うのは私一人ではあるまい。

次号に続く…

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