カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊


写真・文◎神畑重三、松本 亮、犬塚 一、 協力◎神畑養魚(株)


+++ Vol.1 +++
ボルネオカリマンタン採集紀行

■自然下では珍しくプクプクと太った、レッドスネークヘッドの若魚

日本列島に毎日のようにうっとうしい梅雨の雨が降り続けている、6月半ばのことであった。インドネシアの友人、ジャカルタの「ジョン」より電話がかかってきた。「ハロー、カミハタさん。また、ボルネオのマハカム河へ魚採りにいきませんか。ちょうど7月から6月上旬にかけて乾期で、どの川も魚でいっぱいだと現地の魚のコレクターが言っています。それにマハカムの上流の湖には世界でも珍しい淡水イルカの群泳が見られるそうです。」

2つ返事でこの申し出を受けたのは言うまでもない。今年の2月に南米のギアナ高地へ行ってから、早いものでもう半年経っている。そろそろジャングルが恋しくなってきた頃だ。「ジョン」とは、昨年の5月、我が社の鈴木とスマトラ島と南のパレンバンからジャンビー、メダンと1週間かけて縦断したことがある。その時は、運悪く雨季の真っ最中でどこもかしこも水浸しで、ジャングルの中は轟々と洪水のような水が流れていた。魚の採集に苦労したものである。それで、今年は乾期に照準を定めたのであろう。

同行は社員の松本と犬塚である。

日本出発は、8月3日と定めた。

8月4日(日)1日目

6時30分ホテル出発。ボルネオのバンジャラシマン行きの飛行機は8時45分である。1年前と違って、市内より空港まで立派な高速道路が完成しており、日曜のせいもあって車も少なく、窓を開けて走るとヒンヤリとした朝風が肌に気持ちがいい。

今回同行するのは「ジョン」をリーダーとして、前回、前々会のニューギニア行きも一緒であったおなじみの「クゥオ」さん、それに、今回は新しく若手の「バァオ」というブリーダー、見るからに育ちの良さそうな「アルバート青年」の4人であり、我々3人と計7人の大所帯である。

約2時間ほどのフライトでジャワ海を横切って、サウス・カリマンタンのバンジャラマシンに着いた。空港には、今回我々と寝食を共にするメンバーである、現地の魚コレクター「インドラ」さんとインドネシア系の体格の良いドライバーと、そのアシスタントの少年の面々が待っていてくれた。

今回我々は、全行程を車で走破することになっており、使用するのは頑丈なベンツの中型のバスである。しかし、このベンツ、社内通路は狭いし、座席のクッションも硬くて、快適な日本のバスとは大違いである。すぐバスに乗って出発する。今日中にナガラ河上流のアマンタイという町まで行く予定になっている。約5時間程のドライブだが、途中の道幅は狭くて、人と車がやたらと多いその中、我々のドライバーは傍若無人にけたたましく、クラクションを鳴らし続けながら、猛スピードで走り続けるのだ。「こんな無茶な運転で大丈夫やろか」と3人で心配するが、今更どうしようもない。

もうすっかり暗くなってしまってからアマンタイホテルに着いた。思ったよりこぎれいなホテルで安心する。早速、汗と埃でドロドロになった体にマンディを浴びる(水浴)。ふと、ため水の水槽の中も見ると、何か黒いものが「モゾモゾ」と動いている。「アッ、ネズミの子が水の中を泳いでいる」。しかし、よく見ると、これが何と、見たこともないような大きなゴキブリだ。ギョッとしてあたりを見渡すと、部屋の隅の方に同じようなでっかいのがじっとして、長いヒゲをクルリクルリと回している。寝ている間にあんなのに足をかじられたら大変と、靴下をはいて寝ることにした。

8月5日(月)2日目

6時起床。すぐ近くの湖にでかけた。Mengkatip河のこの辺りは、広大な草原が360度ぐるりと地平線の彼方まで続いている。アフリカのサバンナそっくりの壮大な風景である。また、ここは湿原である。雨季には、恐らくここ一帯湖になってしまうのだろう。大平原の中の一本道に車を停めて、ただただ、「すごいなー」と歓声を上げる。

青い目と黄色いヒレが印象的なナマズ

■青い目と黄色いヒレが印象的なバグルス科のナマズ

途中小さな村で停車する。物珍しいのか、現地の人が、ワーッと寄ってきた。道の両側のクリークは、ほとんど干上がっており、小さな水溜りに無数の小魚が酸欠で苦しそうにアップアップしている。死んでしまった魚の悪臭と暑さで、あまり快適な場所ではなさそうである。バスはここまでしか入れず、ここから小型のバイク3台に分乗して、湖まで行くのだという。私は、ジョンのバイクに同乗することになった。幅1メートルあるなしの雑草の生えたガタガタの田舎道を重いカメラバッグと網を持って乗っているのは楽ではない。何度となくひっくり返りそうになる。片側は泥茶色のクリークだ。しかし、行けども行けども湖らしきものは見えない。その途中、水路のヤナで魚を捕っている漁師を見つけ、頼んで魚を見せてもらう。グラスキャット、スネークヘッド、スリースポットグーラミィ、イエローテールキャット、ラスボラ、バルブ、オムポック、淡水フグ、と魚種が豊富である。松本が淡水フグが珍しいのか、手のひらの上で転がしていたら「パクッ」と指に噛みつかれた。「いてて」と驚いてふり放そうと手を振るが、ガブッと喰いついて離れない。そのうちフグの体が膨れてきて、小さなボールくらいの大きさになってしまった。それでも噛みついたまま離れず、指からぶら下がったままである。その様子が滑稽なので思わず笑ってしまったが、フグは歯が鋭いので噛まれたところはまるでナイフで切ったように口が開いている。早速応急手当をしたが、したたる鮮血に本人も驚いたに違いない。

■単車に乗って気のトンネルをくぐり、湖へ

■見た目は可愛いが、その鋭い歯で邪魔者扱いだったレオパードパファー

いくら走っても湖にたどり着けず、あきらめて途中で引き返すことになった。そして、午後からはPangg湖へ向かう。

途中の道は、極端に狭い。こんな道をバスが走ることもないのであろう、無数の電線が道を横断していて、行く手を妨げる。その都度、助手の少年がまるで猿のように身軽にバスの屋根に乗って電線をやり過ごす。車もギアはローギアかセカンドに入れたまま走るノロノロ運転だ。

やっと湖畔に着く。そこは、まるでお祭りみたいに騒がしい人々の雑踏で賑わっている。そのほとんどの人が、イスラムの民族衣装である。

早速ボートをチャーターし、湖へ出かける。河の水は相変わらず赤褐色の泥水で、水深は1メートルあるなしである。湖の中はあっちこっちと大きな「ホテイ草」の塊が浮いていて、その中を乗客を満載したボートがけたたましい騒音をたてながら行き交う。竹の洲が集まった大きな「ヤナ場」の1つを漁師に案内いてもらう。ミストゥス、グラスキャット、バルブsp.、オムポック、スネークキングーラミィ、スリースポットグーラミィ、遊泳性のカイヤンのような魚、中でもファイヤースパイニーイールは、40センチくらいの個体で、真っ赤な模様が鮮やかである。湖上には赤道直下のぎらぎらとした太陽の光を遮るものはなにもなく、サウナのように蒸し暑い。せめて水がきれいであればまだ救われるが、茶褐色の泥水では、ほとほとイヤになってしまう。

私がこれまで経験している魚捕りとはいささか雰囲気が違う。まったく「興冷め」であるが、若い2人は初体験なので、それでも結構楽しく面白かったようである。2時間を過ぎ、また元の船着場に戻る。そこには漁師が我々のために捕った魚をビニール袋に入れて準備していてくれた。ハンパラ、スネークスキングーラミィ、スマトラ、バグルスキャット、ナンダスに似た魚でPristolepis grooti等である。

ここでも我々の周りは黒山の人だかりであった。

■赤道直下の太陽を浴び、真っ赤な体側の模様も鮮やかなファイヤースパイニイール
40センチの個体

■特大のテナガエビ。紫色の脚が美しいが、ここボルネオでは食卓に上る

■ヤナをあけて、魚を見せてくれた地元の漁師たち

ここの漁師の家で昼飯をごちそうになる。皆、車座になって手づかみで食べるインドネシア流の食事だ。魚はいずれも前記のものばかりであったが、あの泥水のイメージがあるのか、泥臭くてエビ以外はあまりうまく感じられなかった。

車は、この後150キロほど上流にあるブントック目指して北上を続ける。ようやく人家もまばらになり、車も少なくなってきた。ドライバーは相変わらず習慣のようにクラクションを押し続けている。が、それもいつしか慣れてあまり気にならなくなってきた。道の両側の木々の緑がうっそうとして濃くなり、だんだんジャングルらしくなってきた。6時頃Dayoというカプアス水系(西カリマンタンのカプアス河と同じ名前である)の小川で車を停めて採集することになる。

この河の水の色は、茶褐色のブラックウォーターで、今までの湖とは水質が違うのが一目でわかる。早速水質チェックをする。pH6.0、GH0、導電率0.53ms、水温20度でいささか低めである。朝から自分たちの手で魚捕りができず、フラストレーションがたまっていたのか、我先にてんでに網を持って黒い河へジャブジャブと入っていく。先陣を切るのは松本だ。彼は普段、何を考えているのかわからないほど物静かな青年だが、一度水を見るや、まるで獲物を追う猟犬のように変貌してしまうのだ。彼にはジョンと2人で「スンガイ(川)ターザン」の称号を敬意を込めて奉ることにした。夢中になって網を引く。

小川ながら魚種は結構多くて、地味な色合いのベタの原種のようなsp.、チョコレートグーラミィ、ローチの類、レイオカシス、それにリコリスの尾ビレがフィラメントのように長くのびている美しい魚も捕取できたのは、大きな収穫であった。気がついて辺りを見回すと夕闇が近づいており、一層黒く見えるブラックウォーターの水面をデルモニゲーが群れをなして泳いでいる。そして、今まで気がつかなかったが何だか悪臭がする。人間の「ウンチ」のような臭いだ。「ウェッ、こんなところに例の水洗便所でもあるのか」と驚いたが、これは水面に浮かべてある、平たい畳1枚ほどの板状の生ゴムの塊から発生するものだとジョンが教えてくれた(これはどういう目的かしれないが、あちらこちらの川で見られた)。すっかり暗くなってブントックに着く。ここはもうセントラル・カリマンタンである。もちろんこんなところである、泊まるところがあるだけでもありがたい。一軒だけあるANNAホテルというのに泊まることになる。部屋に案内されてまずビックリ、狭い部屋いっぱいに、まるでラブホテルにあるような派手で大きなピンクのベットとピンクのシーツが掛かっている。そして、長枕(インドネシアのホテルには、1メートルほどの長さの抱き枕と称するものが置いてある)を動かして、またビックリ、その下に黒い米粒大のネズミの糞のようなものが無数に散乱しているではないか。気持ちが悪いことおびただしいし、不潔である。早速ボーイを引っぱってきて文句をいうと、これはヤモリの糞だという。こちらではどこでも天井といわず、壁といわず、ヤモリが走り回っているのは事実である。ヤモリかネズミか、いずれにしても気味が悪いのには変わりはない。

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