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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in MALAYSIA 「国境の川(アル・ポンス)でアロワナ探索の旅」です。
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ マレーシア/1 Vol.3 +++

「国境の川(アル・ポンス)でアロワナ探索の旅」

インドネシアのスーパーレッド・アロワナは飽きるほど見てきたが、
ゴールデンには一味違う美しさがあり、新鮮な魅力を感じる。
東南アジアで群を抜いて高い経済成長率を誇るマレーシアで、
願わくば、この手でなんとかゴールデンを物にしたいとファイトがたぎってきた。


アロワナを追って警戒の厳しい国境の湖へ

「グリーン・アロワナは値段が安いのでとる人が少ない。産卵期はゴールデンより少し早くて、 昨年はタイとの国境に近い北部の湖で五月二十日ころからシーズンが始まったというので、 ことしも同じころ始まるのではないかと思うけれど、この湖は軍の許可を得ないと入れない」との情報が ランブリー名人から提供された。決断は早いほうがいい。明朝早く出発することにした。

湖の場所を地図で確認すると、直線で二百kmの距離だが、実際には三百kmはありそうだ。 警察や軍の車の許可が必要なので、とりあえずケダ州アロールスター市に向かった。 私とチョンの共通の友人のこの町に住む魚粉会社のテイ社長に連絡すると、ペナン市に出張中だったが、 ありがたいことにわざわざ戻ってきてくれた。

彼が言うには、警察の許可も大切だが、現地はジャングルのど真ん中だから、 近くにある政府高官用の保養地に宿泊する許可を貰うコネを探すほうが先決だという。 友人はありがたい。数年前に頼まれて彼に日本の機械メーカーを紹介してあげたことがあったが、 まさかここで世話になるとは夢にも思わなかった。ジャングルの調査旅行はいろんな人の世話にならないと達成できない。

政府の立派な建物の奥まった一室で森林水利関係の局長と会った。まだ若いが、研修で日本に来たことがあるそうで、 すこぶる好意的で、「この手続きはいくら早くても四、五日かかりますが、あなたたちは特別です」と、にこやかに微笑んで、宿泊の許可をくれた。

宿泊許可は得たものの、警察の許可を取るため警察本部へ行くと、許可には最低三日かかるので無理だと言われたが、 ここでもドクター・ローがクンプラン社の社員ということで、特別に許可を出してくれた。 ポリスが「ジャングルの中は昼間でも道を間違えるので、明るいうちに帰ったほうがいいですよ」と好意的な忠告もくれた。

チョンが役所で宿泊許可の発行書を貰ったあと、この町でわれわれと合流して現地に向かうことを打ち合わせて待つことになったが、 待てど暮らせど彼らはやってこない。四時間が経ち、「こいつはただごとじゃないぞ。二 時間で来られるところを何の連絡もないとは何かあったに違いない」と判断して、チョンの車を探しながらアルスター市のホテルまで戻ったが、 夜の十時になってもチョンから何の連絡もない。みな一室に集まって、重苦しく黙り込んでいる。悪いことばかり想像してしまう。

しばらくしてから、チョンから連絡が入った。なんと約束した道とは違う別の道からすでに現地入りしているという。 トラブルメーカーの本領発揮、どうやらチョンの早とちりらしい。でも、とにかく無事でよかったとみなで肩を叩きあって喜んだ。 チョンはすぐに間違いに気づいたが、「電話のある場所までなにしろ一時間もかかるために連絡が遅れた。 宿泊地は快適で、暗くて周囲の様子はわからないけど、猿の鳴き声がよく聞こえる」と気楽なものだ。

翌日、テイ社長のベンツを運転手つきで提供してもらって、朝早く出発した。 対向車はほとんどなく、時速百三十kmでジャングルの中をすっ飛ばす。二時間ほど走ったところで対向車に出会った。 マイケル青年が心配して迎えに来てくれた車だった。

政府高官専用のマダレスト・ハウスは真っ白の近代的な建物で、広い敷地はぐるりとフェンスで囲まれて、庭を彩る“炎の木”が美しい。 昆虫やトカゲの類がたくさんいた。

勢ぞろいしたスタッフ。チョン(マレー人)、神畑、ドクター・ロー(マレー人)、漁師ランブリー(マレー人)、Dr.マイケル(首狩イバン族)、日浅

■勢ぞろいしたスタッフ。
チョン(マレー人)、神畑、ドクター・ロー(マレー人)、漁師ランブリー(マレー人)、Dr.マイケル(首狩イバン族)、日浅

アロワナはなぜ姿を見せてくれない?

湖に入る許可を貰うため軍警のキャンプに出向くと、道路に遮断機が降りていて、自動小銃を支えた兵士が警備していた。 絶好の被写体だが、兵士に見つかると危険だから撮影を控えるようマイケルに言われた。 われわれが所持している警察の証明書は朝七時から夕方の七時まで湖に入ることの許可で、 軍警のコマンダーから「漁師は別だが、何人たりとも夜間に入ることはできない」という難問が出された。さあ、困った。 アロワナは夜行性だから、昼間の湖では何の意味もない。

「どうしても湖に入りたいなら、地元警察の特別許可を得れば入れる」とアドバイスをもらい、せっかくここまで来て、 おめおめ帰るわけにはいかず、さらに車を一時間ほど飛ばして警察本部を訪れた。 署長が「この署は新しくできたばかりで、いままでそんな許可を出したことがない。どうしても許可が欲しければ本署のCIAに行ってくれ」と言われ、 いまさらあとにも引けず、やけくそでまた一時間ほどジャングルの中を車を飛ばしてクアラ・ネランという町の本署までいき、 ようやく夜間通行許可書を手にすることができた。日本のお役所にも“たらい回し”という奇習があるが、ここではいささか度が過ぎている。

宿舎に帰る車中で「なぜこんなに警戒が厳重で、それにどこの警察署もジャングルの中の町に不釣り合いなほど建物が立派なのか」と問うと、 ドクター・ローが「ケダ州はたびたび動乱が起きた土地で、二年前にも紛争の犠牲者が出た。今夜われわれが入る湖一帯は共産ゲリラの本拠地があった場所で、 この地方はとくに警戒が厳重なのだ」と言う。どえらい所に入り込んだものだと実感させられてしまう。

宿舎に戻って、ボートを出してくれる漁師の交渉に入った。漁師は二十人ほどいるらしい。 その一人が「昨年は五月二十日からいっせいに孵化したアロワナの子が浮上してきて、この湖だけでもグリーン・アロワナが六千尾ほどとれたが、 ことしは雨が少なくて水位が異常に低いので、シーズンが一ヵ月ほど遅れるのではないか」とがっくりするようなことを言う。

暗闇の中、水中の木で足を踏み抜かないように慎重に移動

■暗闇の中、水中の木で足を踏み抜かないように慎重に移動

ともあれ、いよいよ行動開始だ。アーミー・ゲートを通って中に入った途端、大トカゲが道を横切った。 チョンが「わあー、大きな蛇だ。早く写真を!」とどなる。アリクイのような動物も飛び出してきたが、なにしろ一瞬のことなので、カメラに収められない。

目の前に姿を現わした湖面には、見渡すかぎり枯れた大木が乱立している。周囲の状況が一変して、全員にびりっとした緊張が走った。 高いものは二十m近くあって、奇怪な眺めだ。湖には数隻の軍艇が係留して、近くに張ったテントに迷彩服を着た数人の兵士が横になって休息をとっている。 木陰では見張りの兵士が銃を持って湖面を睨んでいる。事前にカメラを隠しておくよう注意されていたが、 私の緑のシャツがアーミーの迷彩服と間違えられて射撃される危険があるというので着替えるよう言われた。

おんぼろボートに乗り込んで、湖面を一時間ほど走ると、砂地の草原地に着いた。ここで夜八時まで待機することになり、ボートは川岸に帰ってしまった。 周囲には動物の足跡がやたら多い。イノシシらしい。ネズミの親方みたいな動物もよく出てくるようだ。カワウソもいるらしい。 てんでに腹ごしらえしたり、のんびり寝転がったりしていたが、空の雲行きが怪しくなり、ポツポツ雨が降ってきた。そのうち物凄い雷が鳴ると、 遠くで「ピカッ!」と稲妻が走った。あいつがここに落ちたら、隠れる場所なんてどこにもないぞ!

剣のように鋭い枯れ木に注意しながらのアロワナとり

■剣のように鋭い枯れ木に注意しながらのアロワナとり

ここでのアロワナとりは、バッテリーと網を持って岸辺を歩いて探すやり方だ。漁師が迎えに来るまでライトと網を持って岸伝いに歩いてみる。 泥の深い所があり、膝まで急にずぼっと埋まるので、歩きにくいことおびただしい。 小さな木でも根が土の中にがっしり張って地上に出た幹がナイフのように鋭い。倒れでもしたらそれこそブスリと突き刺さってしまう。 キャンプからずいぶん離れたので、アーミーに見つかることもないだろうと、こっそり撮影した。

しかし、残念なことにアロワナには一尾もお目にかかれない。アロワナの数が減っているのは動かせない事実だが、 一尾も出てこないとはどう考えても正常ではない。アロワナの口内保育期間は約半月と言われており、マウス・ブリーディングする魚に共通する習性で、 そのあいだ親は餌を摂らない。とすれば、夜間に浮上して餌を捕食することもないわけだ。

現在この湖にいる親魚(たぶんオス)のほとんどが卵か孵化したばかりの子を口の中に含んでいて、 湖底で機の熟するのをじーっと待っている時期ではないだろうか。雨が降って温度が下がると、水温の変化が引き金となって、 とつじょ口からいっせいにリリースを始めて、子が浮上するのではなかろうか。子をリリースしたあと、親は餌を求めて夜な夜な浮上してくることになる。 私の推理だが、どうだろう?

 

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