カミハタ探検隊

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カミハタ探検隊

虎(ハリマオ)の住む密林を横断
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ 東南アジア/5 Vol.4 +++

「虎(ハリマオ)の住む密林を横断」

今回の探索行はスマトラ島を南から北まで縦断。 スマトラは虎が名物で、いまでもジャングルに二百頭ほど生息していると言われているが、とくにジャンビ周辺に多く生息しているそうだ。
虎は“ハリマオ”と呼ばれ、マレーの人々に畏敬の念を持たれていると聞いて、若いころ口ずさんでいた『マライのハリマオー』という軍歌を思い出した。


独立を求めて暴動が多発するアチャ

ブラック・ランサー。ダンディなスタイルと横縞をもつ

■ブラック・ランサー。 ダンディなスタイルと横縞をもつ

早朝、体格のいい青年がホテルを訪れた。前日に出迎えてくれた初老の人は彼の父だという。骨董的老齢車はともかく、ドライバーが若い彼なら、とひと安心した。

メダンの山間部にあるトバ湖周辺には、水のきれいな川がたくさんあるが、水温が低くて、魚はほとんど棲まず、ザリガニかエビくらいしかいないと言う。数種のラスボラ系の魚が南に車で数時間下った場所でとれるとのことだが、日帰りは無理だ。また、北部のランサーでは、アーチャーやスキャットなど、美しい汽水魚がとれるという。ランサーへの所要時間は往復六時間だと言う。こちらの人が見積もる時間は実際の半分くらいと思えばいいが、不幸にしてこの悪い予感が的中した。

海岸の道を北上するとき、なにげなく車の計器を見たら、速度計も、給油計も、メーター類はいっさい作動していない。すべてアウト・オブ・オーダー(故障中)なのだ。

しばらく走ったところで網の引けそうな小川を見つけた。川底は泥が深く、足を取られそうなので、ゴムぞうりを脱いで、ウェットスーツ用のシューズに履き替えた。

最初に網にかかってきたのは、ジャワ・メダカのような魚だが、ブルーの目が宝石のようにきらきら輝いて、尾の黄色が美しい。ジョンがジャカルタのファームに持ち帰って養殖してみようと言っているが、ぜひとも成功してもらいたいものだ。

小川で水遊びをしていた少年たちに網を貸してやると、魚をすくってきて、われわれに見せてくれた。シオマネキの数種類が原色の鮮やかな色をして美しい。魚種もけっこう多かった。

昼食時、レストランでは皿に盛った魚や野菜をわれわれのテーブルにどんどん運んでくるが、ほかの客が味見して食べ残した皿をそのまま持ってくるので、どうにもいただけない。清潔好きの日本人にはいささか抵抗を感じる慣習だ。

ややこしいのは、イスラム教の信者は絶対に豚を食べないが牛肉を食べ、ヒンズー教の信者は牛肉は食べないけど豚肉は食べるという掟である。両者の戒律がなぜ引っくり返っているのか、誰からも納得のいく説明を聞かされたことがないが、それが世界の現実なのだから認めないわけにはいかないだろう。

さらに北へ北へと走ると、人家がまばらになって、大型のパーム椰子のプランテーション地帯に入った。途中で網の引けそうな川もあったが、この辺の水辺には小型の毒蛇が多いので、素足で入るのは危険だと止められた。雨が降ってきたので、パーム椰子の木に寄りかかって雨宿りしていると。クゥオが「幹の中にムカデが棲みついていることが多いから、木には触るな」と注意してくれた。

水草が美しく茂っている川幅二mほどの小川を見つけたが、ここにはデルモゲニーとロケット・フィッシュの二種類のみしかとれなかった。

車はどんどん北上し、州境を越えてアチャに入った。アチャ州は住民が二年前にインドネシアに独立を求めて武装決起してジャカルタ政府軍と激しい戦闘が行なわれた地でもある。運転手によると、「住民が数千人も殺され、政府の特別空挺隊の側も百人以上の死者を出し、道に死体がごろごろ転がるほどの凄絶な戦いだった」とのことだ。

スマトラ島の最北端のアチャ州の州都バンダ・アチャはゲリラ活動が盛んで、外国人は特別許可がないと入れない物騒な地域でもある。日本ではよくティモール島の暴動がニュースになるが、それより何倍も規模の大きいアチャの暴動はあまり報道されていない。厳しい報道規制が敷かれているからだろうか。

アチャは鉱物資源に恵まれており、石油をはじめ、タングステンやモリブデンなどの稀少資源が豊富に産出するが、インドネシア政府は工場をたくさん造って公害をまき散らすばかりで、すべての富はジャカルタに持ち帰られ、住民には何一つしてくれないことが独立を求めて立ち上がる理由だという。ゲリラの後押しをしたのがリビアのカダフィ大佐で、武器を供給したのはアメリカだというから、いよいよもって複雑きわまりない。この州に入ってから道端で見かける人々の顔つきがどことなく凶暴に見えてきて気味悪くなった。

アジアの牙ナマズ、パービャウ

■アジアの牙ナマズ、パービャウ

広東語はさながらマシンガン

途中、何度か大きな川に出くわしたが、ほとんどの岸が険峻で、川に降りることができない。水の色がまったく違う透明度の高い川幅の広いタムジャン川を見つけたので、車が川原に降りられる道を探して、川に入ったら水がすごく冷たい。すぐ後方に二千m級の山脈が連なり、そこから流れてくる水なので、水温が低いらしいのだ。

予測したとおり、何度網を引いても魚は一尾もかからない。そのうち、あたりが薄暗くなってきた。ランサーまであと二時間だと言うが、明かりは私のポケットの小型電灯だけしかない。そんな状況で向こうに着いたとしても、魚をとることなど到底できないし、これ以上の無理は危険だと判断して引き返すことにした。こういう場合、遅い決断は応々にして、とんでもない事故につながりかねないからだ。

周辺はすでに暗黒の世界で、そのうえ激しいスコールがおとずれ、前方がまったく見えない。始末の悪いことに、車のフロントガラスの上下に黒いフィルムがべったり貼り付けられ、視野は三十cmの幅しかない。どしゃ降りの雨の夜道を色の濃いサングラスをかけて走るようなものだ。日中なら熱帯の強い日差しを避けるのに効果があるかもしれないが、夜間では危険このうえない。

運転手が片手ハンドルのまま後部座席を振り向いて、夢中でクゥオと広東語のやりとりをしている。広東系インドネシア人にとって一番話しやすい言葉らしい。小柄なクゥオのからだからはとても想像できないエネルギッシュな話しぶりである。頭のてっぺんから突き抜けるような高い声で、機関銃のごとくバリバリしゃべりまくる。機関銃だと、弾を詰め替える充填のインターバルがあるが、クゥオの銃口(?)はノンストップでまくしたててくる。どこで息をつぐのか不思議に思って、口元をまじまじ見つめてしまうほどだ。いつもは穏やかなジョンまでが加わって、テンションを上げて、三人は完全に舞い上がっている。もう手がつけられない。後部席の鈴木を見ると、呆れるというより、腹立ちを懸命に抑えている顔つきだ。

私がジョンに「この車は朝からもう九時間以上も走っているし、メーターが壊れてわからないけど、そろそろガソリンを入れないとやばいのでは」と忠告すると、何を勘違いしたのか、「トーキング・マシン(しゃべる機械)には、ガソリンは要らない。空気だけあれば十分よ」と洒落にもならない冗談を放ちながら、口角泡を飛ばして口を急回転させている。「なるようにしかならん」と観念したとたん、車が「バスー」と異様な音を立てて「ズルー」と止まってしまった。ガス欠だ!

「それ見ろ、言わんこっちゃない」とどなってみても、あとの祭でしかない。彼らの顔を見ると、さすがに一瞬ギョッとした表情に変わったが、すぐにまたけろりとして、「ワーワーキャーキャー」やり始めた。「蛙のつらに小便」とはこのことだ。不幸中の幸いか、物騒なジャングル地帯をすでに通り抜けており、道端に一軒だけぽつんとある倉庫まがいの建物の前にストップしていた。

そこの人が「自分の車のガソリンを分けてやる」と親切に言ってくれた。ところが、ガソリンを注ぐホースがない。やむなく分けてもらったガソリンを魚を入れるポリ袋に入れ、少しずつタンクに移して急場を凌ぎ、幸運にもガソリンスタンドまで走ることができた。「地獄に仏」とは、まさにこの人物のことであった。

今回の旅もなんとか無事に終えることができた。スマトラ島と言っても、そこらの小川にスマトラがうじゃうじゃ泳いでいるわけではなく、観賞に向く魚はそんなに多くない。秘境と呼ばれる地を訪れるたびに、一尾たりとて野生の魚を殺しては申し訳ないと強く感じる。その土地にしかいない魚は、まさしく地球の貴重な財産なのだ。

ジャングルの中、夜間の採取は続く。静寂な夜のジャングルで聞こえるのは櫂の音だけ

■ジャングルの中、夜間の採取は続く。 静寂な夜のジャングルで聞こえるのは櫂の音だけ