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KAMIHATA探検隊

虎(ハリマオ)の住む密林を横断

text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ 東南アジア/5 Vol.1 +++
「虎(ハリマオ)の住む密林を横断」

今回の探索行はスマトラ島を南から北まで縦断。 スマトラは虎が名物で、いまでもジャングルに二百頭ほど生息していると言われているが、とくにジャンビ周辺に多く生息しているそうだ。
虎は“ハリマオ”と呼ばれ、マレーの人々に畏敬の念を持たれていると聞いて、若いころ口ずさんでいた『マライのハリマオー』という軍歌を思い出した。


新種を求めてハリマオの住むジャングルへ

関西国際空港のオープン以降、インドネシアへの直行便が開設され、関西人にはずいぶん便利になった。 しかも、ガルーダ航空(インドネシア航空)に乗れば、入国管理官が同乗していて、入国に必要な手続きのいっさいを機内で済ませてくれるので、 いっそう簡便になった。つい二、三年前までは、外国人と見るや、袖の下欲しさに洗面具の一つ一つまで厳しく チェックして入国者を泣かせていた税関の役人が、すっかり紳士的になり、インドネシアの国情の様変わりをつくづく感じさせてくれる。

夕暮れのスカルノ空港は、いつもどおりやたら暑く、タクシーの客引きでごった返し、喧騒をきわめている。 風土はそこに住む人々に影響を与え続けて、民族の気質を作り上げるというが、四季の移り変わりがないことが、 この熱帯の国の人々をして、スローモーで、なんとなくだらしなく、何かにつけて大まかな気質を作り上げてしまっている。 インドネシアでは犬までが飼い主に似て、疾走する車の前を平気な顔でのろのろ横切っていき、思わず「あ、危ない!ひかれる」と大声を 挙げることがしばしばある。人一倍せっかちで、典型的な“イラチ”の日本人である私には、もとより相入れる面がなかった。 しかし、この地を毎年のように訪れていると、そんな“ユッタリズム”が大して気にならなくなり、むしろだんだん好きになってきた。 郷に入らば、その国のライフ・スタイルに合わせて、私自身の物差しを変えてしまうからであろう。

今回の探索行はスマトラ島を南から北まで縦断して、魚を採取しようとするもので、 ジョンとクゥオ、それにわが社から鈴木と私とが参加して、計四名のパーティを組んだ。 スマトラ島への出発は朝の五時だ。前夜からろくろく寝ていないが、いつものように強行日程の第一日が始まった。 しかし、ニューギニア探検のような緊張感はない。ただし、同行の鈴木は初めてのジャングル行ということで、いささか緊張ぎみである。 ジャカルタから約二時間のフライトで、四時過ぎにジャンビ空港に到着した。いつものことながら到着は六時間の遅れである。 空港入口には実物大の虎のモニュメントがでんと鎮座してあたりを睥睨している。スマトラは虎が名物で、 いまでもジャングルに二百頭ほど生息していると言われているが、とくにジャンビ周辺に多く生息しているそうだ。 虎は“ハリマオ”と呼ばれ、マレーの人々に畏敬の念を持たれていると聞いて、 若いころ口ずさんでいた『マライのハリマオー』という軍歌を思い出した。

水没ジャングルの中点在する原住民の家屋

■水没ジャングルの中点在する原住民の家屋

水没したジャングルの漁村

空港にはジョンの兄が迎えに来ていた。ジャンビはジョンの生まれ故郷で、高校を出るまでこの地で暮らしていたため友人も多く、 久し振りの帰省に胸を躍らせている。ジャンビは緑の美しい落ち着きのあるのんびりした地方の小都市だが、 観光客が訪れることはめったにないとのことだ。市民の足として、いまも馬車が利用されている。 頭に赤いリボンを飾った小ぶりの馬が数人の客を乗せてポカポカ町中を小走りしている。微笑ましく、見る人に心の安らぎをもたらす平和な光景だ。

さっそくジョンの兄の家で身支度を整え、町中を流れるハリ川の船着場に着いたら、日が沈みかけていた。 モーターボートは五人くらい乗れる全長三mほどの粗末な木製で、クッションがなく、板張りが固いので尻が痛く、 すこぶる乗り心地が悪いが、贅沢は言っておれない。二時間ほどの下流にある魚のコレクターが住む漁師村に向かう途中、 水上家屋の大半が水没して、ぽつりぽつり点在しているのが見えた。いまは雨期の最中なのだ。 落日の素晴らしいパノラマが終わると、漆黒の闇が訪れた。暗闇の中をボートが全速力で駆ける。 舳先でライトを手にした水先案内人が真剣な眼差しで前方を睨んでいて、危険な障害物を発見して合図すると、船頭がさっとボートを急旋回させる。 川には大きな流木が黒く頭を突き出している。衝突でもしたら、粗末な木舟はひとたまりもなくふっ飛んでしまうに違いない。

目的地の漁村では水上に二十軒ほど家が建ち、床すれすれまで水が上がっていた。 漁師の家に荷物を預けて、さっそくカヌーに乗り換える。村の中を抜けるとき、 明かりのついた部屋が暗闇の中にまるで舞台装置のようにほんのり浮かび上がり、住民の生活が影絵的に見えて興味深い。 風に乗ってギターの爪弾きが聞こえてくる。すっかりメランコリイな気分になる。

ジャングルの中にはクラウン・ローチを採るためのモンドリ筒に似た仕掛けがあり、つぎつぎに上げてみるものの、魚はかかっていない。 本流の川は水深十五mの深さで、底は砂地だそうだ。この付近でとれる魚は、ブルー・グラミー、ラスボラ、スマトラ、スネークヘッドなどだが、 水の最も少ない九月から十月にかけては、クレセント・ベタなどが多くとれるという。 雨期は魚が川の中に散って見ることができないとのことでがっかりする。この大洪水のような水位では魚はとれそうもなく、 ひとまず漁師の家に戻って、今後の方針を立てることになった。

「あすは別の水系を探そう」という意見が出たので、ジョンに「次の予定地のパレンバンはどうか」と聞くと、 「やはり一面の水没ジャングルだろう」と答える。なぜ事前に詳しく調査してくれなかったのか、 のんびりした国民性とはいえ時間を無駄にすることへのいら立ちで、愚痴の一つも言いたくなる。 さすがにすまないと思ったのか、ジョンが「ジャカルタに帰って、ボルネオの東カリマンタンにあるマハカム川へ行こう」と予定変更を提案するが、 そこはとてつもなく遠いし、そもそも飛行機が簡単に予約できるとは思えない。 私はこのあとシンガポールに行く予定なので、計画どおりの行程をこなすことを心に決めた。

暗黒の川を全速力でボートを飛ばしてジョンの兄の家に戻り着いたら、真夜中の一時を過ぎていた。もう、くたくただ。

小さな小屋はトイレです。洗濯、炊事、すべて同じ川の水、大丈夫かなあ?

■小さな小屋はトイレです。洗濯、炊事、すべて同じ川の水、大丈夫かなあ?

 

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