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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊in AFRICA KENYA 世界最大の巨大地構帯を行く
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.3 +++

「世界最大の巨大地構帯(グレート・リフトバレー)を行く」

日本の湖とは比較にならない、サバンナの湖。太古はナイル河の一部であった“翡翠の海”トゥルカナ湖、琵琶湖の100倍もの大きさのビクトリア湖。果たしてどんな魚に、人々に出会えるのか・・・。


酔っぱらいクルーザーで砂礫を行く

地球上とは思えない異次元の世界。気温は50℃を超す
■地球上とは思えない異次元の世界。気温は50℃を超す
しょっちゅう故障ばかりするクルーザーで礫砂漠を走る。遥か後方に見えるのがマルサビット山
■しょっちゅう故障ばかりするクルーザーで礫砂漠を走る。遥か後方に見えるのがマルサビット山

朝食時、1台の小型セスナ機が砂礫の滑走路に着陸してきた。フライング・ドクターと称する米国医療調査隊の一行で、定期的に奥地の住民を往診しているのだそうだ。欧米人一流の人道主義が、人類の新しい病気の発生を水際で防いでいるのかもしれない。

われわれはケニアで最小部族の村を訪問することになり、年代物のランド・クルーザーに乗ってがたごととマルサビット砂漠を北上した。途中の景色は、360度の全視界に1本の草木も見えず、角張ったごつごつの岩石や砂利が地平線の彼方まで果てしなく続き、われわれが住む地球上とは思えないほど異常な異次元の世界を展開している。しかし、よく見るとハリネズミのようなトゲ状の葉を持つ高さ30cmくらいのアカシアの灌木がところどころに根づいている。とはいっても、木の色が地表と同じ赤褐色なので、そばに近づかないと、それとはわからない。

赤褐色のなだらかな丘陵の向こうには、うっすらと緑色の丘陵が見えるが、近づいてみると、砂礫の色が他の場所と違って緑色であった。創世期の地球を連想させるような不思議な光景だ。アフリカの砂漠の丘陵は、総じてなだらかで、曲線美を見せ、女性的で、幻想的な美しさがあるが、マルサビット礫砂漠は、荒々しく、ごつごつして、男性的で、猛々しい魅力を感じる。

50℃を超す気温のなか、信じられないほどの熱い風のかたまりがとつぜん吹き抜けて、肺の中までグワーッと熱くなる。60℃近いと思われる熱風が方向を選ばず吹きまくってくる。生まれて初めて体験する暑さだ。こんな熱風に吹かれ続けると、人間の干しスルメになってしまいそうだが、なぜだか、ときおり、ひんやりした冷風が混じってくるので、ほっとひと息つける。

厄介なことに、われわれのクルーザーは砂礫の中でしばしばエンコする。そのつど、キャブレターにアルコールを注いでスターターをかけてやるが、それでも作動しないときは、「酔っ払いクルーザーめ!」と悪口を浴びせながら、車体を蹴っ飛ばし、全員で後押しする。

砂礫の道端に直径1m、深さ1.5mほどの素掘りの穴があって、のぞいてみると、底のほうに少し泥水がたまっていた。こんな貧粗な水源でもここに住む部族には貴重で、原住民はこの穴に降りて、お碗状の器で泥水を一杯ずつすくっては、遠くまで持ち帰るのだそうだ。

ここには野生動物は何も棲んでいない。ヘビも棲めないほど厳しい環境だ。しかし、エルモロ族が売っている化石の中にカバやワニの骨の化石があることからすると、ナイル川とつながっていて大昔には、いろいろな動物がいて、豊饒な肥えた土地であったと推察される。

昔この地方に住んでいたカバの牙とワニの化石 狭いながらも楽しいエルモア族の家の中
■昔この地方に住んでいたカバの牙とワニの化石 ■狭いながらも楽しいエルモア族の家の中

エルモロ族とトゥルカナ族

湾の岩山にへばりつくように小屋掛けして住んでいるエルモロ族の村に着いた。エルモロ族はいっさい魚を食べないトゥルカナ族と違って、魚をとって生活する珍しい部族である。数多いケニアの種族の中で100名そこそこの最少数の部族である。例によって、見学料金の交渉が始まった。彼らにとっては、ときおり訪れてくる物好きな外国人からの撮影料が唯一の貴重な収入源だから、交渉の顔つきは真剣そのものだ。やがて決着がついて、決して安くない撮影料を支払うと、黒檀色をした10名ほどの女性が原色の衣装を身に着けて美しく着飾り、輪になって歌いながらダンスを披露し、精いっぱいの歓迎をしてくれた。少し哀愁を帯びているが、独特の美しいリズムとハーモニーのある心地良い歌声が翡翠色の湖面に響いて流れていく。ビンセントに歌の意味を聞くと、神への祈りと客人への歓迎を表わす内容だという。

よく見れば、なかなかの美人に見えるが?
■よく見れば、なかなかの美人に見えるが?
オアシスに住む黄金色の小型のティラピア。新種か?
■オアシスに住む黄金色の小型のティラピア。新種か?

湖に面した風通しのいい粗末な小屋は外から中が丸見えで、雨期にはどうなるのか他人事ながら心配になる。小屋の外では10人くらいの男性が賭け事に夢中になっており、ここでも働くのは女性だけらしい。

帰るとき、道端にある泉の穴の前に大勢の人が集まり、炎天下での水汲みの順番を待っていた。写真を撮ろうとしたら、「金よこせ」と詰め寄られた。彼らにとっては当然の要求だろうが、ちょっとばかり興ざめだ。

道のない砂漠を車で飛ばすと、遥か彼方に高い山々の連なる様子がぼんやりとかすんで見え、近づくと礫砂漠の中に小さなオアシスの緑を見た。山脈からの水が地下の割れ目を伝って地表に湧き出てオアシスを作っているのだそうだ。砂漠の中で見るオアシスの緑は、目が覚めるほど美しい。緑という色がこれほどまで人の心を和ませるかと新鮮な感動を覚えてしまう。

「山に動物がいるのか」とドライバーに聞くと、「棲んでいるのは蛇ばかりで、怖がって誰も登る人はいない」という。蛇がいるからにはその餌になる小動物もいるのだろう。

オアシスの小さな泉は、プランクトンを含むどろっとした水であった。何回も網を引いて、やっと4cmほどのドワーフ・ティラピアを採集した。この厳しい大自然の中でけなげに生きている魚にふさわしく、顎の下に黄金のストライプが入った素晴らしく美しい魚であった。その姿をカメラに収めて、そっと泉に放してやった。

キャンプに戻って遅い昼食をとり、4時ころ再びトゥルカナ族の村に出掛けた。彼らはこの地区では最大の部族で、砂漠の上にマッシュルームの形をした小屋まで建てて住んでいる。小屋の数は100に近い。この村でもやはり観覧料を徴収された。この部族の歌はエルモロ族よりテンポが速く、調子の良さにつられて、私も彼らの踊りの輪に入っていっしょに踊ったが、リズムがいちだんと盛り上がると、年齢のせいか、すぐに息切れしてしまう。

岬の先端に行くと、あたり一面が淡いセピア色に染まるなか、太陽が猛スピードで沈んでいった。息を呑む美しさだ。誰も何も言わず、ただ口をあんぐり開けて眺めている。地球は動き、生きているのだ、と心の底から感動する。

小笹がキャンプの中に気持のいい温泉プールがあるというので、行ってみると、プールの片隅から2インチほどのパイプの湯量で透明な湯がどんどん流れ込んでいた。肌に適当に熱く、口に含むと、無味無臭である。アフリカに来て、温泉気分が味わえるなんて、思わず鼻歌が出るほど快適であった。

キャンプの中庭に70平方メートルほどパピルスがぎっしり生えた池があって、40cmの高さの金網がそれを囲っている。草むらから中型の体長2mほどのナイルワニがじっと目を光らせてこちらをうかがっていた。小笹がこの池の魚をとるつもりで網を持って池に入ろうとしていたので、「ワニがいるぞ」とあわてて注意した。まさに危機一髪のところだった。このような土地ではちょっとした不注意がとんでもない事故を招くことがあるので、常に緊張を緩められない。

夜が更けるにつれ、また強風が吹き荒れてきた。あすはビクトリア湖への移動日だが、この強風ではチャーター機が来るかどうか、ちょっぴり心配になる。

ダンシング・ウィズ・トゥルカナ族。つい誘われて踊りの中へ
■ダンシング・ウィズ・トゥルカナ族。つい誘われて踊りの中へ

乱気流の中を小型機で飛ぶ恐怖

翌朝、チャーター機の到着を待つため、ゲートのそばで待っていると、漁師や世話になったボーイたちが見送りに集まってきた。その中の1人が「来た、来た」と言う。われわれがいくら耳をそばだてても何も聞こえない。「空耳やで」と嘲笑していたら、ずいぶんしてかすかな爆音が耳に響いてきた。いつもながら、彼らの目と耳の鋭さには驚かされる。五感の能力を欠くと、過酷な大自然で生きていけないのだろう。日本人の祖先だってこうした能力を持っていたはずだが、文明の進化につれて、不必要な機能として退化したのかもしれない。

機は双発の新鋭機で、若い白人パイロットである。よく晴れているが、強風が滑走路の砂塵を巻き上げている。機上から見ると、トゥルカナ湖が地溝帯のどん底に位置しているのがよくわかる。気流が悪いので、がぶりながら、機はどんどん高度を上げていった。

コックピットの高度計は4000フィートを指している。この高度になると、さすがに揺れが少なくなったが、そのかわり酸素が希薄になるのか、眠くなって、うとうと眠り込んでしまった。どれくらい寝てたのか、雨粒がフロントガラスを激しく叩く音で目が覚めた。機はだいぶ高度を下げている。雨に濡れた下界の樹木や畑の緑が何日かぶりなので、とても新鮮に見える。キスム空港ではキマニーがスタッフ2名を連れて待機していた。車中でビンセントと小笹が「気流が悪くて機がひどく揺れたせいで気分が悪くなって酔った」ことや、「死の恐怖におじけづいた」ことなど、興奮ぎみに話していた。私だけがグウグウ寝入っていたようで、みんなにあきれられたが、とりたてて人より肝っ玉が太いわけではない。強いて言えば、ジャングル生活の体験から状況に応じて自然体で対処する危機対応のスタイルを会得していたということであろうか。

夕刻前、インペリアル・ホテルという名前だけ超一流のホテルに到着した。トゥルカナと比べて10度以上気温が低く快適である。

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