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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in INDONESIA 「まだ見ぬ部族が潜む魔境(マンベラモ)を行く」
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ イリアン・ジャヤ/2 Vol.7 +++

「まだ見ぬ部族が潜む魔境(マンボラモ)を行く」

日本から「遠くて、そして遠い国」イリアンジャヤの魔境に日本人で初めて訪れる。いったいどんな冒険と出会いが待ち受けているのだろうか・・・。


ダボラの肝っ玉かあさん

日が暮れてきたので、「ダボラまであとどのくらいかかるのか」とハルーンに聞くと、もうすぐそこだという身振りをするので、安心してひと眠りした。目が覚めると、暗闇の中だった。カヌーに先導させながら、ボートは狭い川幅をそろそろ進んでいる。水深も浅いし、底に岩があって危険らしい。ライトに照らされた彼らの表情は真剣そのものだ。

世界中の熱帯魚愛好家に一大センセーションをもたらした新種のドワーフ・レインボーは、ここで発見された

■世界中の熱帯魚愛好家に一大センセーションをもたらした新種のドワーフ・レインボーは、ここで発見された

15年のキャリアのあるパイロットもこのマンボラモの上空は飛んだことがないという

■15年のキャリアのあるパイロットもこのマンボラモの上空は飛んだことがないという

暗くてわからないが、ダボラに帰ってきたのではないらしい。川の水をライトで照らすと、水は見事なクリスタルだ。どうやら、違う水系に入ったらしい。ハイコが船を止めて網引きを試みたが、レインボーばかりで目新しい魚はいない。しかし、小エビが多いのには驚きだ。ハイコが水上を連れて、上流まで網引きに出掛けた。

昼飯抜きで腹がだいぶ減ってきたので、私がボートに残って食事の準備をすることになった。船頭たちに乾燥カレーのパックを与えて、作り方を説明してやった。うまそうなカレーの匂いがボートの上に立ち込めたとき、ハイコが帰ってきて、鍋を見て「これはご馳走だ」とばかりにぱくぱく食べはじめた。パオラから「それはカミハタさんが船頭にあげたものよ。すこしは遠慮しなさい」と言われて、柄にもなくバツの悪そうな顔をした。

上流には5cm前後の海老が層をなして泳いでいたそうだ。ハイコが「ここの水は飲料水として最高だ。袋に入れて持ち帰ろう」と喜んでいる。いくら煮沸した水とはいえ、泥水ばかり飲んできたのでこの水はありがたい。さっそくこの清水を袋詰めにして持ち帰ることにした。

途中で出会った原住民にダボラまでの距離を聞くと、「まだ3時間ほどかかる」という。うかうかすると、ハイコが朝まで網引きをすると言いかねないが、このままいけばなんとか真夜中までにはダボラに着けそうなので、ひと安心した。

ダボラに着くと、船のエンジン音を聞きつけて、真夜中にもかかわらず、村人が出迎えてくれた。「よくもまぁ、無事に帰れて本当によかった」という顔つきをしている。彼らも入ったことのない奥地にわれわれが入ったものだから、心配していたらしい。私も一時は極度に体調を崩して、ほとんど断念しかけた旅であったが、無事に戻れた幸せを神様、仏様、両親に感謝して胸がいっぱいになった。

ハイコはこのままボートの上で夜明かしするというので、われわれ2人は再びニワトリ小屋に泊めてもらうことにした。肝っ玉母さんがにこにこ顔で出迎えてくれ、懐かしい気持ちになった。杓子で何杯も水をかぶり、久し振りのマンディで幸せいっぱいの気分を味わった。月明かりのもと、若者たちが手製のギターを弾いて、てんで踊っている。また、雨が降ってきた。すごい雨音だ。ボートに残ったハイコたちのことが気にかかったが、疲れと安心感とで2人ともぐっすり寝込んでしまった。

翌朝、目が覚めると水上がにやにや笑っているので、「何かいいことでもあったんかいな」と聞くと、「昨夜はテントだから蚊はいないし、おなかもいっぱいで最高に気分がよかった。美女がそばにいっしょに寝ている夢を見て、つい嬉しくなって彼女の手をぎゅっと握ったら、社長の手でした」と大笑いになった。

朝早く起床して、世話になった肝っ玉母さんに不要になった日用品をプレゼントして、ヘリの着地点へと急いだ。相変わらず大人や子供が先を競って荷物を運んでくれるので大助かりだ。予想外だったのは軍の厳しいチェックがあったことだ。目的はわからないが、それまでにこにこ顔で写真に収まっていたアーミーが一変して厳しい顔つきで全部の荷物をチェックしはじめたのは、ちょっとした驚きだった。しかし、検査が済むと、以前と同じ友好的態度に戻った。

雨の中、待望のヘリが迎えに

雲と雨で機影は見えないが、「パタパタ」というプロペラ音が聞こえ、早朝にもかかわらずヘリが時刻どおりきっちりに飛んできた。雨脚がすごいので、出発を少し遅らすことにしたらハイコが寸暇を惜しむようにお供を2人連れてジャングルの中に消えていった。ほんまに"魚取りの鬼"みたいなやっちゃ。

さしもひどかった雨も2時間でやみ、空は明るくなり、陽光が差し込んできた。村人がガヤガヤ言いながら草原滑走路を指している。ふと見ると、大きな野豚(猪)がのそのそ横切ってジャングルに消えていった。誰も追いかけて捕まえようとしない。村に一匹の豚もいないことからすると、彼らの栄養源は常食のサグーと魚で、たぶん動物の肉を食べる習慣がないのではなかろうか。人間の肉は別としても……。

天候がすっかり回復して、再び暑い日差しがじりじり照りつけてきた。だが、待てど暮らせどハイコが帰ってこない。村人に頼んでハイコを探しにジャングルに行ってもらったが、パイロットも何度も時計を見ながらいらだっている。「年のころから見て、第二次世界大戦のとき日本軍と戦った生き残りみたいやぜ。日本人が嫌いなのか、俺たちと顔を合わせても、にこりともせんなぁ」と水上と二人で悪口を叩くほど無愛想な男だ。

出発前、採集魚の整理。重量オーバーしたため、急遽水を減らすことになった

■出発前、採集魚の整理。重量オーバーしたため、急遽水を減らすことになった

長さ300キロもある秘境マンベラモ水系

■長さ300キロもある秘境マンボラモ水系

ハイコと行動を共にするには本当に本物の忍耐力が必要だ。彼の性格をわかっていても、ついいらいらして、思わずパオラ嬢に当たってしまう。 彼女は、「カミハタさんは彼と古くからの友人だから、ハイコの性格をよく知っているはずよ」と、ケロリとしている。苦虫パイロットが辛抱を切らせたのか、「あまり時間がないので重量チェックをやらせてくれ」と勝手に荷物を計量しはじめた。強引な男だ。体重は自主申告だ。合計すると30kgのオーバーウエイトになる。濡れた引き網や水の入ったビニール袋が思いのだ。荷物を減らせというが、われわれにとって不要な物は何ひとつない。

ハイコはまだ戻らない。予定よりすでに5時間近くも遅れている。私もしびれを切らせて、とうとう水上にもジャングルの川へ探しに行かせた。みんなの忍耐力が極限に達したころ、滑走路の草むらの一端にハイコの姿が見えた。ビニール袋を大切そうに村人に持たせ、意気揚々と帰ってきた姿を見て、私の堪忍袋の緒が切れた。「パイロットを5時間も待たせて平気で魚取りとは、君はなんというわがままな男なんだ。自分勝手な行動で他人に迷惑かけるな」と思わずどなりつけた。さすがの彼も困り果てたように顔を下に向けている。ほとほと愛想の尽きる男だ。天候が変わらないうちに出発したいので、魚の写真を撮ったあと、オーバーウエイトの分だけ水を減らし、なんとか規定内の重量に収めた。

ハイコが「カミハータさん、私の弁解を聞いてくれ」と私を木陰に誘って、「5時間も遅れたのは悪かった。私はさっきの川で珍しいレインボーを発見したが、今回の旅行で最大の収穫と誇れるほどの新種なんだ。たしかに、夢中になって時間を忘れたのは事実で、否定しないけれど、じつを言うと、私は出発を遅らせることが賢明だと判断したんだ。なぜなら、朝のうちは霧と雲が低く、地面を這っていたけれど、午後には雲や霧が消えると船頭から聞いていたからだ。ヘリが低空で飛んでも、視界が効かなければいい写真が撮れないと判断して、引き延ばし作戦を取ったのだ」と見事な言い訳をする。「それならそうと事前に説明してくれれば、われわれも納得して協力できたのに」と言い返すと、彼は「自分の友達は数少ないが、カミハータさんはその一人だ。ジャングルに入ったら、どうか自分を信頼してくれ。これからは必ず事前に相談するから」とあまり当てにもならない弁明をされたがそこは友達同士のことでもあり、わだかまりはきれいさっぱり水に流すことにした。

突如として眼下に虹のブリッジが出現。ヘリは、その下を潜り抜けて飛ぶ
■突如として眼下に虹のブリッジが出現。ヘリは、その下を潜り抜けて飛ぶ

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