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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in INDONESIA 「人食人種(アスマット)とカンガルーが暮らすジャングル」
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ イリアン・ジャヤ/3 Vol.1 +++

「人食人種(アスマット)とカンガルーが暮らすジャングル」

日本から「遠くて、そして遠い国」イリアンジャヤの魔境に日本人で初めて訪れる。いったいどんな冒険と出会いが待ち受けているのだろうか・・・。


ダニ族の住むメラウケへ

イリアン・ジャヤへの探検旅行はこれで3度目になる。今回はジャカルタの熱帯魚の大手のシッパーのジョンとブリーダーのクゥオ、そして当社の若松と私の4人でパーティを組んだ。

遅れるのが当たり前になっているガルーダ航空の搭乗機が珍しく定刻の朝5時にジャカルタを離陸した。途中、スラウェシ島(セレベス島)のウジュン・パンダンで乗り換え、ジャヤプラのセンタニ空港へと直行する。眼下のニューギニアはべったりと鉛色の雲に覆われて何も見えない。天候は10月直前だから、すでに雨期に入ったのでは、と心配になる。

国境にあるメラウケ空港のカンガルーのモニュメント。ニューギニアは動植物の分布がオーストラリアと同じ

■国境にあるメラウケ空港のカンガルーのモニュメント。ニューギニアは動植物の分布がオーストラリアと同じ

4WDもしばらく立ち往生。このあたりはカンガルーも多い

■4WDもしばらく立ち往生。このあたりはカンガルーも多い

ジャカルタとニューギニアでは約1時間の時差があるが、日本とニューギニアの間には時差がない。機がジャヤプラのセンタニ空港に着いたのは夕方で、ジャカルタを出発してから12時間以上かかっていた。同じインドネシア領なのに、イリアン・ジャヤは日本から格別に遠いというのが実感だ。とにかく眠い。ジャカルタのホテルを朝3時に出発したので、前夜、睡眠する時間がほとんどなかったからだ。

2年ぶりの空港は見違えるほど立派に改装されていた。かっての茅葺きの屋根をニューギニアらしいと懐かしがるのは部外者の身勝手な感傷で、文明の波は否応なしに秘境にも押し寄せている。ホテルは空港から歩いて5分ほどの所にあり、もう何度も泊まっているので、従業員が私の顔を覚えていて、にっこり迎えてくれる。このホテルを初めて訪れたときには4室だけだったが、すっかり改装されて18室に増え、食堂までできている。どんどん便利になっていくのに反比例して、素朴で鄙びた人間性が失われていく気がしてならない。

メラウケへの出発にさいして、あちらでチャーター機に乗るかもしれないので、重量オーバーにならないように、余分の食糧などをホテルに預けて軽装備にした。ジャヤプラ←→メラウケ間の便は2日に1便に増便されていた。搭乗機の出発が1時間ほど遅れたが、待合い室は以前のサウナ風呂まがいの部屋と違って、クーラー、テレビ付きになっていて、すこぶる快適で、待たされてもさほど苦にならない。

メラウケまでは5000m級のジャヤウィ・ジャヤの山脈を越えて飛ぶコースだ。途中の山々は、赤道直下にもかかわらず、頂上に真っ白な雪をかぶっていて、氷河も見える。パプア・ニューギニアとの国境線を一路南下して、最南端にある辺境の町メラウケに到着した。この町はニューギニア南西部最大の町で、人口は約10000人もある。

この周辺の水域の魚種は豊富で、ニューギニアから日本に輸入されるイエローバンドやアロワナ、珍しいカメやスッポンモドキなどは、すべてこの周辺で採取されている。メラウケはまた、アジア・アロワナの捕獲ベース基地でもある。

空港の建物は予想していたよりも立派で、滑走路は完全舗装され、空港入口にはここに住むカンガルーなどの動物の等身大のモニュメントが並び、ジャヤプラとは一味異なったたたずまいだ。 待合室に入ると、ポリスがすっ飛んできて、「パーミッションを見せろ」という。長い時間をかけてパスポートと書類をチェックしたあと、やっとスタンプを押してくれた。わずらわしいが、イリアン・ジャヤの辺境の地に入るには、事前に許可書を取っておかないと面倒に巻き込まれるのだ。

空港にはジョンの友人で当地の政府の魚類保護官であるアントンと、魚のコレクターのジェフリーが出迎えてくれ、彼らの車で空港からほど近いホテルに向かった。道は広く、町並みも立派で、とても辺境の町とは思えない。暑さよけのためか、ホテルの天井は高く約5mもあり、広々として爽快な気分にさせられる。

両替のため銀行に足を運んだ。インドネシア人銀行員のお金の数え方はじつに面白い。両手の5本指をフルに使って数えるのだが、その早いこと、早いこと、まるで手品師のようだ。ところが、肝心の両替業務は能率が悪くて、30分以上待たされてしまう。

ワッサー国立公園という動物保護区に向かう途中、道の両側のジャングルが火煙を上げて燃え、煙で靄がかかり、視界がきかず、徐行運転をしながら車を進める。やがてゲートがあり、車は料金を支払って入場する。道路脇には「動物の飛び出し注意」の標識が出ている。事務所の壁には捕獲してはいけない動物や蝶、そして蘭などの写真が貼られて厳重に保護されているが、魚類はその対象に入っていない。

ジャングルの中の一本道を1時間ほど北上したが、目につくのは鳥ばかりで、お目当てのカンガルーは一匹も見当たらない。見張り小屋の現地人に聞くと、カンガルーは早朝でないと出てこないし、乾期にはよけい少ないと聞いてがっかりしてしまう。この日は早めにホテルに帰って、アロワナ採集のための英気を養うことにした。

アロワナを求めてひたすら密林の一本道を進む

ジェフリーもアントンも実際のアロワナ捕獲に挑戦するのは今回が初体験で、大いに張り切っている。現地には泊まる場所がないのでテントを持参し、目的地の川にはボートがないので大型ダンプカーに積んだボートを先行させ、出発点まで運ばなければならない。

国立公園の密林の一本道を真っすぐ時速80kmで何時間も走り続けて北上するが、ほとんど対向車に出会うことがない。飽き飽きするほど単調な景色が続く。道は簡易舗装されているが、随所に見られる小川に架かった橋には枕木が渡してあるだけなので、そのたびに減速するため、わずらわしいし、時間もかかる。

年に1度の野焼き(雑草を焼いて害虫を殺す)で褐色のジャングルと化す

■年に1度の野焼き(雑草を焼いて害虫を殺す)で褐色のジャングルと化す

途中の食事も現地のスタイルで。慣れないとポロポロこぼしてしまう

■途中の食事も現地のスタイルで。慣れないとポロポロこぼしてしまう

この辺りのジャングルは野焼きの火で「ブスブス、メラメラ」と燃えている。人の気配はまったくなく、燃えるにまかせている。目的は焼畑ではなく、下草を焼いて害虫を殺したり、灰を肥料にするためだという。焼け跡には、雑木が焼けて灰になって渦高く積もり、大木の幹は真っ黒に焼けただれて痛々しい。ところが、樹の上のほうではもう若葉が青々と茂り、逞しい生命力を発揮している。黒と緑とのコントラストがまことに奇妙で、不思議な光景だ。

道端で車座になり、昼食のナシゴレン(焼めし)をインドネシアふうにみんなと同じに手づかみで食べるが、これがなかなか難しい。指でつまむとき、ぐっと力を入れて固めるのがコツで、慣れないとばらばら落ちてしまう。左利きの若松は「左手は不浄の手とされているんで、不愉快に思いませんか」などと、左手で食べる無礼を気にしながら、ぱくぱく食べている。

国境が近くなったようで、やたらと検問所が多くなり、そのつどいちいち許可証の提出を求められる。道端に銀色のワシが翼を広げた大きなモニュメントが飾ってあった。一万数千もあるインドネシアの島の中でここは最南端に位置していて、翼の先端にそれが刻まれている。

すぐ近くに国境線があるというので、「国境を見せてくれないか」と警備の兵士に頼んだが、「外国人はいっさい入れない」とにべもない。お隣のパプア・ニューギニアとの関係が友好的でなく、両国の国境線は何人も越えることができないという。まるで朝鮮半島の38度線のようで、ものものしい雰囲気を感じる。

イリアン・ジャヤがインドネシア領に帰属したのは1969年で、それからすでに4世紀半が過ぎているが、インドネシアから独立して、パプア・ニューギニアと合併して独立しようとする現地住民の反インドネシアの地下運動が激しいために警備が厳しいとのことだ。目と鼻の先にあるパプアに入りたければ、14時間かけてシンガポールまで戻り、改めて別のルートで入るしか方法がないとは。

この国境周辺はどこでもやたら兵士が多い。 ごろごろしている若い兵士はみな色の黒いインドネシア系の人ばかりで、中国系の兵士は見かけない。ジョンが、「この国では中国系インドネシア人は兵隊になれないんだ」と苦笑した。インドネシアでは経済的な問題が起こるたびに中国系の人が血祭りにあげられる。インドネシアの総人口は2億人近い。そのうち中国系は300万人で1.5%にすぎないが、この国の経済は彼らに牛耳られている。インドネシア原住民の中国系住民に対する反感が相当に根強い理由はそこにある。

デコボコ道に入った。どうやら目的地が近いようだ。とてつもなくでっかい真っ赤な太陽がジャングルの中に沈んでいくのが見えた。アントンが気をきかして車を停めてくれたので、素晴らしい夕日に酔いながらカメラに収める。若松が「同じ太陽なのに、どうしてここでは何倍も大きく、真っ赤に見えるんでしょうか。不思議だなぁ」とつぶやいている。

うんざりするほど検問所が多い。しかも時間をかけて許可書をチェックするのでたまったものではないが、友好的ではある
■うんざりするほど検問所が多い。しかも時間をかけて許可書をチェックするのでたまったものではないが、友好的ではある

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